主要ポイント

  • 生成AIに関連する仕事は2023年1月に入って急増し、2023年7月末時点でIndeedの求人全体の0.02%を占める。
  • 生成AIに関連する仕事は、現時点では生成AIの「開発」に関係するITエンジニア職が大部分を占める一方で、Webデザイナーなど生成AIの活用によって既存の仕事を「強化」することが可能な職種も上位に現れ始めている。
  • 生成AIによって新しく生まれる仕事(例:プロンプトエンジニア)の求人も増加し始めている。

変化する雇用情勢の中で、生成AIは新たなチャンスと挑戦の到来を告げる中心的な存在になっています。この革命的なテクノロジーが社会の様々な側面に溶け込むにつれ、その影響は必然的に労働市場にも及びます。AIによる人の仕事の置き換えに関する議論が続く一方で、生成AIのポジティブな側面として、既存の仕事の強化や新しい職業の誕生という別の物語も展開されてきています。

本レポートでは、生成AIに関連する仕事の求人がどの程度発生しているのかを確認し、この領域における様々な職種の出現に焦点を当てます。

生成AI関連の求人は、2023年に入ってから急増

2023年7月31日時点で、Indeedに掲載された求人のうち生成AIに関連する求人が占める割合は0.02% でした。これは、10,000件の求人のうち2件に過ぎないので、求人割合としては低く見えるかもしれません。しかし、インテリアコーディネーターやスポーツクラブスタッフなどの比較的身近な職業と同程度の割合であること、そして2022年までほとんど観測されなかった状態から急増していることは注目に値します。

生成AIに関連する求人の割合推移。期間は2022年1月1日から2023年7月31日まで。
生成AIに関連する求人の割合推移。期間は2022年1月1日から2023年7月31日まで。

生成AI関連の求人は、現時点ではテクノロジー関連の職種に集中するも、開発以外の職種にも浸透

生成AIに関連する求人には、どのような仕事があるでしょうか。Indeedが通常定義する職種カテゴリのなかでは、「ソフトウェア開発」が生成AIに関連する求人全体の34%を占め、次いで「事務」(13%)、「クリエイティブ」(11%)となります。さらに職種まで細分化し、生成AI関連の求人の上位20職種を抽出しました。

全体的には、「ソフトウェア開発」の職種カテゴリが生成AI関連求人の上位である事と同様に、システムエンジニア、フロントエンドエンジニア、機械学習エンジニアなどのテクノロジー分野の職種が上位を占めています。これらの職種は、生成AIなどの「開発」に本質的に関連しています。他方で、生成AIの影響力が技術領域・エンジニアリングの領域を超えた役割に浸透しつつあることが、データから観測され注目に値します。

例えば、日本では必ずしもエンジニアリング・スキルを必要としないwebデザイナーの仕事(同職種の職種カテゴリは「クリエイティブ」)が、生成AIに関する職種として2位に位置しています。また似たような職種であるUI/UXデザイナーも9位です。これらは生成AIを開発する仕事ではなく、生成AIの活用によって既存の仕事の質の向上や労力の削減が期待されるような仕事(以降、仕事の質の向上や労力の削減が臨める仕事を「強化される」仕事と呼ぶ。)の典型です。例えば、生成AIによって既存のデザインや画像からHTMLコーディングを一部自動化したものを活用することによる効率化や、生成AIによって提案された様々なレイアウトやデザインの中からより良いものを選ぶことでアウトプットの質の向上に繋がると考えられます。またバックオフィス業務、営業等の求人情報にも生成AIに関する仕事の記載があり、これらはIT事務・IT営業あるいはライティング・編集・翻訳等に関連するものが多く含まれます。

生成AIに関連する求人に占める職種の割合を算出し、その上位20職種を掲載。青は主に生成AIなどITプロダクトの開発に関連する職種、赤は主に生成AIの活用により仕事を強化する職種、黄色は主に生成AIを利用する職種を表す。
生成AIに関連する求人に占める職種の割合を算出し、その上位20職種を掲載。青は主に生成AIなどITプロダクトの開発に関連する職種、赤は主に生成AIの活用により仕事を強化する職種、黄色は主に生成AIを利用する職種を表す。

このように、生成AIの活用によって仕事がより強化される側面は、生産性に関する言説と密接に関連しており、最近の学術論文では、生成AIの労働生産性の効果を実証分析するものが増えてきています。例えば、Brynjolfsson, Li & Raymond (2023)では、生成AIに基づく会話アシスタントをカスタマーサポートに導入した場合の生産性効果を実証分析し、特に低スキルの労働者の生産性を向上させることを明らかにしています。同様の結果はNoy & Zhang (2023) などでも確認されます。これらの研究は、生成AIが経験やスキルを有する労働者の潜在的な暗黙知の活用を容易にし、様々な仕事の労力を削減し、特に十分な経験やスキルを持たない労働者の生産性向上につながる可能性があることを強調しています。

生成AIによって新たな職業も生じ始めている

生成AIは、既存の仕事の役割を強化するだけでなく、まったく新しい職業も誕生させています。このトレンドの顕著な例は、「プロンプトエンジニア」の出現であり、企業の課題などに対処するために生成AIに適したプロンプトを作成することを任務とする役割です。

Indeedでは、求人データを分析にするにあたり、各職種の定義を確立していますが、最近登場した「プロンプトエンジニア」はまだ定義が確立していません。しかし、実質的にプロンプトエンジニアを意味する職を抽出すると、生成AI関連の求人にプロンプトエンジニアが占める割合は、2023年6月から大きく増加し、2023年7月には生成AI関連の求人の7.8%を占めています。これは、表中ですでに定義された上位20職種と比べても上位に位置しています。

生成AIに関連する求人にプロンプトエンジニアが占める割合。データは月次平均。同データは実質的に2023年3月から観測され始めたため、期間は2023年3月-7月を掲載。
生成AIに関連する求人にプロンプトエンジニアが占める割合。データは月次平均。同データは実質的に2023年3月から観測され始めたため、期間は2023年3月-7月を掲載。

このようなダイナミックな状況は、生成AIと雇用市場の複雑な相互作用を浮き彫りにしています。そして、生成AIによって仕事の生産性が向上し、新たな専門職が生じ、その専門職の道を育成する可能性を際立たせています。最近の学術研究はこの点で示唆に富んでおり、潜在的な専門知識を民主化し、労働努力を最適化し、最終的には熟練労働者と初心者労働者の両方の生産性を向上させる生成AIの能力を強調しているのです。そして、Indeedのデータからも、全てとは言えないにしてもそのポテンシャルを確認することができるのです。

方法

この分析では、「生成AI」「大規模言語モデル」「Chat GPT」など、生成AIの存在を示す特定のキーワードを使って、生成AIに直接関連する求人情報を抽出している。

同様に、プロンプトエンジニアの職の抽出については、プロンプトエンジニアを直接的に意味するキーワードが求人情報に入っていることを条件としている。

上位20職種における、「主に開発関連」「主に強化関連」「主に利用関連」の分類については、ILOの先行論文を参考とした。ただし、「主に開発関連」については、生成AIを含む何らかのITプロダクトを開発する、ないし、エンジニアリング・スキルを要する職種を区分することとした。これは、職種の定義を変えない限り、生成AI自体の開発か、別のITプロダクトの開発かの識別が現時点で明確に困難であった理由によるものである。

Erik Brynjolfsson, Danielle Li, and Lindsey R.Raymond. 2023. “Generative AI at Work.” NBER Working Paper.:カスタマーサポートの仕事に生成AIベースの会話アシスタントを導入した労働生産性効果を分析。Shakked Noy and Whitney Zhang. 2023. “Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence.” SSRN Working Paper:大卒の専門職にライティングタスクを割り当て、ChatGPTによる生産性効果を実証実験。