主要ポイント

  • 雇用者と求職者のミスマッチは、パンデミック時には特に乖離していましたが、ここ数ヶ月で全体的にはパンデミック前の水準に接近しています。しかしパンデミック前からミスマッチの水準が高いため、採用難の大きな原因となっています。
  • 看護、ソフトウェア開発、経営などの分野では雇用者が求職者を集めるのに平均より苦労しており、事務、小売、倉庫管理などでは求職者間の競争が平均より激しいなど、職業上のミスマッチは依然として相当程度存在しています。
  • 介護、看護では、パンデミック以降求職者関心が減少し続けているため、パンデミック前の状況まではミスマッチが解消されず、むしろパンデミック前よりも高い水準でミスマッチが残る可能性があります。
  • ミスマッチの程度が大きい職種カテゴリは都道府県で概ね共通していますが、都道府県個別事情によって一部の職種カテゴリにミスマッチが生じることに留意が必要です。

経済がパンデミックから回復するにつれ、労働市場は2021年以降、明らかにタイト化してきています。しかし、経済には何か別のことが起こっているような気がします。つまり、労働市場に大きな変化が生じ、求職者が希望する職業と求人情報が一致しなくなったのではないか、ということです。

この疑問について考えるため、求職者と求人にどのような相互関係があるか。ミスマッチの程度を表すIndeedのデータに注目しました。


求職者と雇用者の間の職業のミスマッチの程度は、パンデミック以降2021年初めまでは、パンデミック前の水準を上回っていましたが、それ以降は減少し、パンデミック前の水準に戻ってきています。しかし、ミスマッチはパンデミック前から高い水準にあり、依然として現在も高い水準であることが採用難の大きな原因となっています。

職業ミスマッチの推移は全体としては減少傾向、パンデミック前の水準に回復

​​Indeedのデータでは、求職者がクリックした求人をもとに、求職者の関心を特定することができます。このクリック数から、求職者がどこの場所で働きたいのか、何をしたいのか、という将来を見据えた指標を得ることができます。もし、パンデミックによって求職者が探している職業が大きく見直されたとしたら、クリックされる職種も大きく変化すると考えられます。

Indeedは、求職者の関心と求人とのミスマッチを測定するため、クリック数と求人数の分布を職種別に比較した総合的な指標(以下、「非類似度」と呼ぶ。)を開発し追跡しています。すなわち、ミスマッチとは、文字通り求職者の関心と雇用者の採用ニーズがマッチしていない度合いを表します。

もし、景気動向によって求職者と雇用者の距離が離れれば、非類似度は上昇するはずです。2019年6月から2020年9月にかけて比較的短期間に上昇した後、非類似度はすぐに長期的な減少傾向に戻っていることがわかります。

パンデミック以後、介護や保育などの分野で求職者と雇用者の動きが正反対になり、求人の割合が増加する一方で求職者のクリック数は減少した結果、ミスマッチが増加しました。そのため、この分野は雇用者側にとってより競争が激しくなりました。アート・エンターテイメントなどの他の職種カテゴリでは、求職者のクリック数が増加し、求人の割合が減少したため、求職者にとって競争が激しくなり、逆の方向に動きました。しかし2020年9月以降、ミスマッチは徐々に減少し、求職者のクリックと求人の分布はより近くなっています。

ミスマッチの推移を示したもの。縦軸を0%から50%として、Indeedは2017年1月から2022年9月までの横軸でクリックと求人の分布を比較した非類似度を追跡しました。非類似度は求人数の割合とクリック数の割合の差(ミスマッチ指標)の絶対値を集計し、プラスマイナスの2方向のダブルカウントを調整した値を使用。詳しくは「方法」を参照のこと。2022年9月の時点で、Indeedのミスマッチ指標は34.5%です。
ミスマッチの推移を示したもの。縦軸を0%から50%として、Indeedは2017年1月から2022年9月までの横軸でクリックと求人の分布を比較した非類似度を追跡しました。非類似度は求人数の割合とクリック数の割合の差(ミスマッチ指標)の絶対値を集計し、プラスマイナスの2方向のダブルカウントを調整した値を使用。詳しくは「方法」を参照のこと。2022年9月の時点で、Indeedのミスマッチ指標は34.5%です。


しかし、全体的なミスマッチは依然として大きく、改善の余地は十分にあります。非類似度は、2022年9月時点で34.5%です。これは、求職者の関心と雇用者のニーズのバランスをとる上では、求職者のクリックの34,5%が本来は他の職種カテゴリに移動する必要があったことを意味します。また例えばアメリカでは非類似度の水準は20%程度であり、他国と比べてもミスマッチの水準が日本は大きいといえます。


ミスマッチの程度の大きい職種カテゴリ

ミスマッチの程度を職種別に見るとどうでしょうか。下の表が示すように、介護、看護、飲食、経営など、求職者が集まりにくい分野がミスマッチ指標が大きく、目立っています。事務やカスタマーサービスなどでは、求職者のクリック数が求人数を上回っているため、関心をもつ求職者が多い一方で、それに応える求人が少ないため、求職者側で競争が激しいと言えます。ただし事務の求職者のミスマッチついては、少し割り引いて考える必要があるかもしれません。なぜなら事務は職種カテゴリ上の曖昧さのためクリックしてみないと求人情報がわかりにくく、従ってクリックが増えがちであると考えられるからです。

雇用者と求職者のミスマッチの程度が大きい職種カテゴリについて、雇用者にとって競争が激しい上位職種カテゴリと求職者にとって競争が激しい上位職種カテゴリを図示したもの。2022年9月時点では、求職者にとっては事務が7.9ポイントの差で平均より競争が激しく、雇用者にとっては介護が4.5ポイントの差で平均より競争が激しい。
雇用者と求職者のミスマッチの程度が大きい職種カテゴリについて、雇用者にとって競争が激しい上位職種カテゴリと求職者にとって競争が激しい上位職種カテゴリを図示したもの。2022年9月時点では、求職者にとっては事務が7.9ポイントの差で平均より競争が激しく、雇用者にとっては介護が4.5ポイントの差で平均より競争が激しい。

2022年9月にミスマッチの程度が大きかった職種カテゴリは、ミスマッチがピークに達した2020年9月においても大きかったかというと、必ずしもそうではありません。これは、各職種カテゴリでパンデミックからの回復具合が異なることに大きく影響します。

確かに、介護や経営、事務、倉庫管理などは2020年9月も変わらず、ミスマッチの程度が大きい状態でした。しかし、ソフトウェア開発、製造、小売りなどは、2020年9月と比べて逆の動きをしています。ソフトウェア開発、製造は2020年9月はむしろ求職者側で競争が激しかったのに対して、2022年9月では逆に雇用者側で競争が激しくなっています。パンデミックになった初期には、比較的リモートワーク可能な場合の多いことや、メディアからの注目等が原因でソフトウェア開発に求職側の関心がより強まったのに対し、雇用側は採用を見合わせたり、求人のスピードが追いつかなかったことが原因として挙げられます。小売りについては、2020年求人が減り求職者関心はそれよりもさらに小さくなったことでミスマッチが大きかったのに対して、2022年2月からは求職者の関心が戻り始めてミスマッチが減り、直近2022年9月はむしろ求職者の関心が求人を上回る傾向にあります。パンデミック初期は求職側が特に人と接する仕事を避けていましたが、今度は小売りの求人が2022年になっても回復が遅いことが、このミスマッチに表れています。

もう一つ注目したい点は、介護、看護のミスマッチの推移です。これらの職種カテゴリではパンデミック以降求人数の割合は増え、求職者の関心は減り続けることでミスマッチが拡大しました。2022年以降はパンデミックも緩和したことを背景に求人数の割合が減ったことでミスマッチは急速に低下したものの、求職者の関心が戻らず減少し続けているため、2022年9月以降パンデミック前の状況までミスマッチが解消されるかは不透明です。求職者の関心が減り続ける状況が変わらないと、ミスマッチがパンデミック前の水準に戻らず、より高い水準で推移し続けるか、あるいは長い時間をかけないと解消されない可能性が高いといえます。

この折れ線グラフは、2017年1月から2022年9月までの介護と看護のミスマッチの推移を示したもの。ミスマッチ指標には求人数の割合とクリック数の割合の差を使用。破線はパンデミック直前に当たる2020年2月時点の各時系列の値を図示したもの。
この折れ線グラフは、2017年1月から2022年9月までの介護と看護のミスマッチの推移を示したもの。ミスマッチ指標には求人数の割合とクリック数の割合の差を使用。破線はパンデミック直前に当たる2020年2月時点の各時系列の値を図示したもの。

都道府県間でミスマッチの程度が大きい職種カテゴリは概ね共通するが、一部異なる傾向には留意が必要

各都道府県でミスマッチの程度が大きい職種カテゴリは何かを探るため、都道府県ごとの求職者にとって平均よりも競争が激しい上位5分野と、雇用者にとって平均よりも競争が激しい上位5分野をマッピングしました。これによって以下の傾向が確認されました。

  • ミスマッチの程度が大きい職種カテゴリは都道府県で概ね共通しています。事務は全ての都道府県で求職者にとって競争的です。同様に運送や倉庫管理、医療事務なども多くの都道府県で求職者にとって競争的です。反対に、介護は全ての都道府県で雇用者にとって競争的であり、製造、経営、看護、機械工学等も多くの都道府県で雇用者にとって競争的です。
  • 飲食については、雇用者側の競争が激しいのか求職者側の競争が激しいのかは、都道府県間で混在しています。北海道、千葉県、東京都、福岡県など相対的に都市圏の方が雇用側の競争が激しいため、飲食店が過剰であるか求職者側の他の職の選択肢が多いことが示唆されます。また飲食についてはパンデミック前よりミスマッチの程度は小さくなっているため、各都道府県のパンデミックからの回復具合にも影響しています。
  • 都道府県の個別事情によって一部の職種カテゴリにミスマッチが生じています。例えば東京都ではソフトウェア開発の人材獲得競争が特に激しいといえます。昨今のIT人材のニーズDX推進の流れから、IT業界のみならず製造業や他の業種においてもDX人材の需要が高まり、その需要が企業の本社機能が多い東京に集中しやすくなっていることが背景にあると考えられます。
2022年9月時点のミスマッチ(求人数の割合-クリック数の割合)を、ミスマッチの程度が大きい職種カテゴリ及び都道府県でマッピングしたもの。各都道府県でミスマッチ指標の正の値が大きい上位5職種カテゴリと、ミスマッチ指標の負の絶対値が大きい上位5職種カテゴリを抜粋したもの。そのため、都道府県によって上位5職種カテゴリに選ばれていない、白のブランクとなっている職種カテゴリが存在する。赤色が濃いほど雇用者側がより競争的であり、青色が濃いほど求職者側がより競争的であることを示す。
2022年9月時点のミスマッチ(求人数の割合-クリック数の割合)を、ミスマッチの程度が大きい職種カテゴリ及び都道府県でマッピングしたもの。各都道府県でミスマッチ指標の正の値が大きい上位5職種カテゴリと、ミスマッチ指標の負の絶対値が大きい上位5職種カテゴリを抜粋したもの。そのため、都道府県によって上位5職種カテゴリに選ばれていない、白のブランクとなっている職種カテゴリが存在する。赤色が濃いほど雇用者側がより競争的であり、青色が濃いほど求職者側がより競争的であることを示す。

結論:職業ミスマッチはパンデミック収束で減少するも高い水準にあり、介護・看護ではパンデミック前よりさらにミスマッチが高い水準で残る可能性

Indeedの求人の職種カテゴリ別のクリック数と求人数を比較すると、職業のミスマッチがかなりあることがわかります。特に事務と介護についてはほぼ全都道府県でミスマッチの程度が大きいと言えます。パンデミックを経て現在は全体的に悪化していませんが、依然としてミスマッチの水準が高いといえます。

これは労働市場において根強い問題で、雇用者は必要な労働者を見つけにくくなり、求職者は希望する職業に就くことが難しくなります。

求職者側の競争が激しいミスマッチについては、純粋に求職者の関心を反映している一方、その関心の中には、例えば他の職種カテゴリを潜在的に希望していたとしても求職者が自身のスキルを勘案して、事務職など現在のミスマッチが大きい職を希望する場合などが考えられます。その場合、リスキリングやITスキルなどを身につけることによって、他の希望の職を選び、結果としてミスマッチ改善につながる可能性が考えられます。

介護、看護については、上記のように求人上の職の特性による影響は考えにくく、パンデミック以降求職者の関心が減少し続けているため、パンデミック前の状況まではミスマッチが解消されず、むしろパンデミック前よりも高い水準でミスマッチが残る可能性があります。この検証には、引き続きミスマッチの追跡が必要ですが、これらの職種カテゴリでは、高い賃金やより良い労働環境、若年層にとっても興味を持たせる政策など、求職者の関心を上げる更なる施策や工夫が必要かもしれません。

 
方法

職業ミスマッチは、Duncan and Duncan の非類似度指数を用いて、求人と求職者のクリック数の割合の差から測定しています。クリック数によって、求職者の過去の職歴ではなく、将来を見据えた関心に注目することができます。また、1人の求職者が様々な求人をクリックする可能性があるため、クリック数は求職者の関心の強さを表しています。 割合の違いは、求職者と求人の分布を比較していることを意味します。  ミスマッチが0ということは、すべての求人に適切な求職者が存在するということではありません。ミスマッチが0であれば、雇用や就職の相対的な難易度が、すべての職種で同じであることを意味します。一方、ミスマッチが大きいということは、ある職種では雇用者の人材確保が難しく、他の職種では求職者が仕事を見つけるのが難しいということです。 

都道府県については、求職者が居住する場所ではなく、求職者がクリックした求人の勤務先場所をベースとしています。