主要ポイント

  • 求職者が仕事を検索する際の時給について、1,500円を検索する割合が前年同月比で40ポイント増加しており、求職者の検索行動の変化を示唆しています。賃金上昇とインフレーションが求職者の期待金額に影響を与え、従前の1つの基準であった1,000円の検索から、1,500円の検索に切り替わってきています。
  • パンデミックが始まった直後に賃金に関する検索が全体的に減った理由には、他の検索ワードがパンデミック開始直後に増えて代替された可能性や、飲食等のオンサイトで時給に強く関連する職業の求人がパンデミック後に減ったため、賃金への関心が一定期間薄れた可能性が考えられます。しかし直近はインフレーションの影響で賃金の検索ワードがまた増加しています。
  • 光熱費、食費、住居費など必需品に相当する品目において、パンデミック前よりも実質消費は減少、他方名目消費が上がっていることから、消費を伸ばすことができないことが示唆されます。これも高い賃金を期待する原因となっています。

より高い賃金の検索

求人の検索ワードの増加は、労働市場がどのように変化してきたかを知る手がかりとなります。Indeedでの検索は、職種や希望勤務地に焦点を当てることが多いですが、求職者は特定の金額も検索します。言い換えれば、求職者は特定の賃金を探しており、これらの検索を集計すると、賃金の期待値を知ることができます。

2019年と2020年では、Indeedでの検索全体のうち1,000円を含む検索のシェアは、1,500円や2,000円を含む検索よりも大きい状態でした。しかし、その傾向は2021年9月に逆転しました。それ以来、1,500円を含む検索のシェアは、1,000円を含む検索を上回っています。さらに、2022年9月30日現在、1,500円の検索シェアは前年同月(2021年9月)比で40ポイント増加しています。一方、1,000円の検索シェアは、同時期に10ポイント減少しています。

また、2,000円の検索数も徐々に増加しています。1,500円に比べればまだ小さいものの、9月30日現在、2,000円の検索シェアは前年同月(2021年9月)比で26ポイント増加しています。さらに、2022年5月下旬時点から、2,000円の検索シェアは1,000円の検索シェアを上回ってきています。

この折れ線グラフは、2019年1月1日から2022年9月30日までの賃金関連の求人検索割合を示したもの。青色、赤色、黄色の折れ線はそれぞれ1,000円検索、1,500円検索、2,000円検索を表す
この折れ線グラフは、2019年1月1日から2022年9月30日までの賃金関連の求人検索割合を示したもの。青色、赤色、黄色の折れ線はそれぞれ1,000円検索、1,500円検索、2,000円検索を表す

名目賃金とインフレーションの状況

名目賃金の上昇とインフレーションの2つの要因が、求職者がより高い賃金を検索することに影響を与えていると考えられます。2022年2月からの名目賃金は少しずつではあるものの上昇に転じ若干の伸びが確認されます。求職者は、より高い賃金を得ることが可能であることを知ると、期待値が増加し、より高い賃金を探す方向に作用する可能性があります。しかし、2022年6月以降は再び名目賃金は伸びていない状況です。

他方で、インフレーションは労働者の給与を圧迫し続けています。2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を含め、グローバル全体でインフレーションが加速し、日本でもその影響が出てきました。

結果として、2022年4月以降の実質賃金はパンデミック前の水準を下回り、最近は更に低下しています。これは、求職者が仕事探しをする際に、賃金への期待値を上げる要因になっている可能性があります。

この折れ線グラフは、2020年2月の名目賃金と実質賃金の指数を100に基準化し、それぞれの季節調整値の時系列を2019年1月から2022年8月まで示したもの。2022年2月以降名目賃金と実質賃金の差が拡大している。
この折れ線グラフは、2020年2月の名目賃金と実質賃金の指数を100に基準化し、それぞれの季節調整値の時系列を2019年1月から2022年8月まで示したもの。2022年2月以降名目賃金と実質賃金の差が拡大している。

パンデミック前後の賃金検索ボリュームの変化要因

直近はインフレーションの影響でより高い賃金の検索・期待が増えていることが確認されました。もう1つ気になる点は、賃金に関する検索をパンデミック前後で比較するとボリュームダウンしたことです。この点について、いくつかの要因が考えられます。

1つは、リモートワークを含めた他の検索ワードの増加です。パンデミックの影響により従来よりも働き方に関心がシフトしたことや、パンデミックの影響を相対的に受けにくい、あるいはパンデミックにより労働需要が増える可能性がある職業(例:ドライバーの求人)などが関心となり、結果として、その時期の賃金の検索は他のワードに代替されることが増えたと考えられます。実際に、「リモートワーク」に関する検索数は、2021年1月ではパンデミック前の2020年1月と比較し30%の増加、2022年1月では2020年1月と比較し51%の増加となっています。この状況でも直近は賃金検索がまた増えてきており、インフレーションに敏感になっていることを示唆していると考えられます。

この折れ線グラフは、2019年1月から2022年9月までのリモートワーク関連の求人検索割合を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得。
この折れ線グラフは、2019年1月から2022年9月までのリモートワーク関連の求人検索割合を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得。

もう一つ考えられる要因は、パンデミックによる業界の落ち込み方の違いや、業界における時給の感度の違いです。Indeedのデータから職種カテゴリ別に給与体系に時給が占める割合(以下、「時給シェア」と呼ぶ。)を算出すると、クリーニング・清掃(時給シェア89.1%)、飲食(75.1%)、教育(72.8%)、カスタマーサービス(72.5%)、小売り(61.7%)、の順に時給シェアが大きく、これらの業界は人と接することが多いためパンデミックの影響を受けやすくリモートワークも相対的に困難であったことはよく知られています。

この表は時給シェアが大きい5職種カテゴリと小さい5職種カテゴリを並べたもの。給与の種類には「時給」「日給」「週給」「月ベース」「年ベース」「ブランク(観測されない)」があり、ブランクを除外した算出シェアを掲載。ブランクを除外しない場合のシェアが著しく低い場合は、マイナーな職業とみなし掲載から除外。
この表は時給シェアが大きい5職種カテゴリと小さい5職種カテゴリを並べたもの。給与の種類には「時給」「日給」「週給」「月ベース」「年ベース」「ブランク(観測されない)」があり、ブランクを除外した算出シェアを掲載。ブランクを除外しない場合のシェアが著しく低い場合は、マイナーな職業とみなし掲載から除外。

時給シェアが上位の3職種カテゴリであるクリーニング・清掃、飲食、教育と、職種全体の求人数変化率を算出すると、2020年と2021年においては上位3職種カテゴリは総じて職種全体よりもさらに求人数が少なくなっており、かつパンデミック前よりも求人数が少ない(0%を下回る)ことが確認されます。特に飲食は2022年になっても回復が遅く、2022年4月以降にパンデミック前の求人を上回るようになりました。

この折れ線グラフは、2020年2月を基準とした2022年9月までの職種全体、クリーニング・清掃、飲食、教育の求人数変化を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得
この折れ線グラフは、2020年2月を基準とした2022年9月までの職種全体、クリーニング・清掃、飲食、教育の求人数変化を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得

このように、2020年、2021年の時給に強く関連する求人の冷え込みが、求職者の賃金への期待を低下させた可能性があります。実際に賃金に関する検索だけでなく、これらの職種カテゴリをより直接的に検索した場合*の検索推移を確認しても、パンデミック以降概ね減少傾向です。

*検索ワードについては「方法」にて記載。

この折れ線グラフは、2019年1月から2022年9月までの時給シェアの高い職種カテゴリに関する検索割合を示したもの。破線はパンデミック開始時期、灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得
この折れ線グラフは、2019年1月から2022年9月までの時給シェアの高い職種カテゴリに関する検索割合を示したもの。破線はパンデミック開始時期、灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得

消費は光熱費を中心に物価上昇の影響を受けている

求職者側がより高い時給を希望する背景にインフレーションの影響が確認されますが、消費行動についてはどうでしょうか。消費状況を調べるため、総務省「家計調査」の各品目に対する名目消費金額と実質消費金額(名目から物価変動を除いた金額)の2020年2月からの変化率を可視化しました。その結果、以下のことが確認されます。

  • 消費支出全体で、名目消費はパンデミック前とほぼ変わらないが、実質消費はわずかに減少。
  • 食費・住居費・光熱費においては、実質消費はパンデミック前を平均的に下回っている一方で、名目消費はパンデミック前より上昇。

これは、教育費など他の費目の消費が代替的に増えたことも影響しますが、消費者側が必需品の消費金額を抑えようとしているものの、インフレーションにより名目では上がってしまっていることを示唆します。

この折れ線グラフは、2020年2月を基準100として、家計調査の品目分類ごとの消費支出の名目指数と実質指数の推移を図示したもの。2つ目の食料と4つ目の光熱・水道においては名目と実質の乖離が特に大きくなっていることがわかる。
この折れ線グラフは、2020年2月を基準100として、家計調査の品目分類ごとの消費支出の名目指数と実質指数の推移を図示したもの。2つ目の食料と4つ目の光熱・水道においては名目と実質の乖離が特に大きくなっていることがわかる。

結論:インフレーションにより、求職者はより高い賃金を求めている

企業はパンデミックの影響から徐々に回復し、それに伴って求人も増えてきました。そして生活者はインフレーションによって名目賃金と実質賃金との大きなギャップに直面した結果、消費を伸ばすことが難しい状況となり、求職者の間でより高い賃金への関心が確実に高まっていることがわかりました。

雇用者側がこの状況に応えるには個々の課題があると考えられますが、少なくとも人手不足に悩む雇用者にとって、より高い賃金を提示することが求職者の関心を集めることにつながるのは間違いなさそうです。

方法

季節調整済みIndeed求人のデータは、2020年2月1日以降の季節調整済み求人の変化率で、7日間の後方移動平均を使用しています。2020年2月1日は、パンデミック前の基準値です。2017年、2018年、2019年の過去のパターンに基づき、各シリーズを季節調整しました。

特定の金額での検索は、「1,000円」「1,500円」「2,000円」または同義のもの(例えば時給1000など)を含む検索クエリと定義しています。2022年のいくつかの日付のデータが欠落しているため、補間しています。

またリモートワークに関する検索については「在宅勤務」「リモートワーク」「テレワーク」または同義のもの(例えば完全在宅)を含む検索クエリと定義しています。

職種カテゴリに関する検索については、分析者が確認可能な範囲で各職種カテゴリに関連するものを紐づけています。

  • 飲食:飲食、調理、料理、外食ジャンル(例:イタリアン)、チェーン店名等のワードを含む
  • クリーニング・清掃:清掃、クリーニング、掃除、衛生等のワードを含む
  • 教育:教育、教師、講師、指導、スクール、インストラクター、科目名(例:英語)等のワードを含む

緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得しています。

職種カテゴリ別の時給シェアの算出については、給与種類である「時給」「日給」「週給」「月ベース」「年ベース」「ブランク(観測されない)」のなかで、ブランクを除外した形で時給が占める割合を算出しています。
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