主要ポイント

  • Indeedの履歴書データと求人クリックデータを使用し、現職からどの職種カテゴリに関心を示しているかを分析しました。関心先は、現職で何の仕事をしているかで大きく異なることが確認されました。
  • 共通する傾向には、資格や業務経験が必要な職種カテゴリは参入障壁が高く異職種からの関心は大きくならず、逆に業務内容に親和性がある職種カテゴリ間では互いに関心が大きくなりやすいことです。また労働環境の良し悪しは異職種への転職意欲だけでなく、同職種内の転職意欲にも影響します。
  • 看護において同職種のクリック率(関心)が大きい理由としては、異職種からの参入障壁の問題、異職種への転職における機会損失の大きさ、労働環境の良し悪しが挙げられます。
  • 事務は異職種からの転職意欲も高く、それ以上に同職種の事務からの転職意欲が高いため、事務への流入が多く、結果として求職者にとって競争が激しくミスマッチにも繋がっています。

本分析では、Indeedの履歴書データと求人クリックデータを使用して、求職者が同職種内での転職に意欲を示しているか、異職種への転職意欲がどの程度あるのか、また労働環境との関係性について分析します。

​​Indeedでは履歴書を登録できる機能があり、登録した求職者が現在勤めている職種カテゴリについて把握することが可能です。履歴書を登録した求職者が求人に示す関心は、より転職への意欲が高いものと考えられ、本分析では履歴書を登録した求職者が求人をクリックする行動に焦点を当て、それを「転職意欲」として扱います。

各職種から、どの職種カテゴリに転職意欲があるか

各履歴書カテゴリからどの求人職種カテゴリへのクリックが多いのかを確認するため、履歴書カテゴリと関心先である求人職種カテゴリのクリック割合を、マッピングしました。このマッピングの見方をまず解説します。

  • 縦軸は履歴書カテゴリを、横軸は求人職種カテゴリを指します。各行で赤が多い場合は、縦軸に記載の履歴書カテゴリの求職者が様々な求人職種カテゴリに広く関心を示していることを意味します。ただし、これは履歴書登録件数の多さにも影響するため、履歴書カテゴリの配分の大きい小売りや事務、営業といった職種カテゴリでは、割合が大きくなりやすいことに留意する必要があります。
  • 各列で青が多い場合は、横軸に記載の求人職種カテゴリが多くの履歴書カテゴリから関心が小さいことを表します。多くが法律、ヘルスケア、金融関連など専門的で資格が求人の多い職種カテゴリであり、同職種以外からの転職は元々参入障壁が高いことから、関心が低いと考えられます。
  • 対角線上のセルは同職種での転職意欲を表します。どの職種カテゴリも概ね同職種以外からより同職種からの転職意欲の方が高い傾向です。
履歴書登録者の各職種カテゴリ(=履歴書カテゴリ)からどの職種カテゴリ(の求人)に関心を示しているかを図示したもの。各履歴書カテゴリから各求人の職種カテゴリへのクリック数を集計し、そのクリック数を履歴書登録者のクリック総数で割った割合を算出。算出には、2022年1月-12月のデータを使用。色分けについては、割合の分布形状に鑑み、線形でなく対数線形した値を元に実施。
履歴書登録者の各職種カテゴリ(=履歴書カテゴリ)からどの職種カテゴリ(の求人)に関心を示しているかを図示したもの。各履歴書カテゴリから各求人の職種カテゴリへのクリック数を集計し、そのクリック数を履歴書登録者のクリック総数で割った割合を算出。算出には、2022年1月-12月のデータを使用。色分けについては、割合の分布形状に鑑み、線形でなく対数線形した値を元に実施。

これらの見方を踏まえると、職種カテゴリ別には、以下の傾向が確認されます。

  • 業務内容が大きく異ならない、すなわち親和性の高い職種カテゴリ間での転職意欲は高くなります。例えば、事務とカスタマーサービス、あるいは営業と小売は近い業態のため互いにクリック割合が大きくなりやすいことが確認されます。
  • ただし、事務は異職種からの関心が強い以上に、事務内部からの関心が強いため、事務には関心が集中しやすい傾向です。
  • 看護は、異職種からの転職障壁がある一方で、他の転職障壁がある職種カテゴリ(医療・ソフトウェア開発・金融関連)と比べると、履歴書登録件数が多いので、同職種での転職意欲が相対的に高くなります。それでも看護に従事している求職者からの、他の職種への転職意欲は低く、同職種での転職意欲が高いことは注目に値します。
  • 農業・コンサルティング・保険・不動産では対角線上は赤くないため、これらの職種の人は転職する場合に同職種を視野に入れない、つまり異なる職種に関心を示す傾向があります。

同職種・異職種クリック率の変遷

各求人の職種カテゴリはどの程度同職種からの転職意欲で占められているか、各履歴書カテゴリはどの程度異職種に関心を示しているのかを確認するため、同職種クリック率、異職種クリック率を算出しました。

下の模式図の通り、同職種クリック率は、履歴書カテゴリ全体から特定の求人カテゴリへのクリック(②)のうち、同職種からのクリックが占める割合(①)を意味します。同様に、異職種クリック率は特定の履歴書カテゴリから求人カテゴリ全体へのクリック(④)のうち、異職種へのクリック(③)が占める割合を意味します。

同職種クリック率、異職種クリック率の定義及び算出方法を模式的に表したもの。
同職種クリック率、異職種クリック率の定義及び算出方法を模式的に表したもの。

同職種クリック率、異職種クリック率をパンデミック前後で職種カテゴリ別に算出した結果、以下の傾向が確認されました。

  • 同職種クリック率は、看護では50%を超え特に大きいのに対し、看護以外では50%を下回ります。ただし看護も2020年の特にコロナが深刻であった時期においては同職種クリック率は下がりました。これは当該時期において看護の仕事が特にハードとなり、異職種への関心が相対的に増えたためと推測されます。
  • 異職種クリック率は、看護、事務、運送等で相対的に低い傾向でした。すなわち、これら職種が現職である求職者は求職先も同じ職種にこだわることが多いことを示します。
同職種クリック率をパンデミック前後で職種カテゴリ別に図示したもの。縦軸は0%から100%。
同職種クリック率をパンデミック前後で職種カテゴリ別に図示したもの。縦軸は0%から100%。
異職種クリック率をパンデミック前後で職種カテゴリ別に図示したもの。縦軸は0%から100%。
同職種クリック率をパンデミック前後で職種カテゴリ別に図示したもの。縦軸は0%から100%。

より良い労働環境は、異職種への転職意欲だけでなく、同職種内の転職意欲にも影響

同じ職種であっても採用企業が異なれば、労働環境も異なります。従って、そのような労働環境の違いは、異職種への転職意欲だけでなく、同職種内の転職意欲にも影響する可能性があります。

例えば看護では、異職種クリック率が小さく、同職種クリック率が大きいことがわかりました。原因の1つは、他の職種からの参入障壁が高いことです。裏を返せば、看護従事者からみると、異職種への転職は、せっかく取得した資格や職務経験を活かせなくなる機会損失があり、その機会損失が相対的に大きいことが同職種クリックを大きくすると考えられます。
もう1つ考えられる原因は、労働環境の良し悪しです。特に履歴書登録件数もクリック件数も多い転職意欲のある職種において、同職種クリック率が高ければ、同じ職種でも違う職場でより良い労働環境を求めていることが考えられます。

このような原因がデータから見えてくるか確認するため、各履歴書カテゴリにおいて、「残業なし」あるいは「夜勤なし」かどうかで*、より同職種クリックが増えているどうかを確認しました。

*求人には労働環境を示す様々なタグがついている中、「残業なし」「夜勤なし」のタグがついているかどうかが、特に看護等においては重要な問題であると仮説を立てたため、今回の調査対象とする。

Indeedの求人における「残業なし」のタグがついた求人のイメージ図。
Indeedの求人における「残業なし」のタグがついた求人のイメージ図。

下図の通り、職種カテゴリの約8割で、同職種内のクリックにおいてタグ「残業なし」「夜勤なし」のある求人をクリックする割合が、タグ「残業なし」「夜勤なし」のある求人割合を上回る結果となりました。最もその差が大きい法律・法務の職種カテゴリにおいては、同職種クリック率の21%が「残業なし」「夜勤なし」の求人に向けられており、これはこれらのタグが法律・法務の求人の9.6%にしか記載されていないことを考えると非常に高い数字です。同様に看護においても、同職種クリック率の17%が「残業なし」「夜勤なし」の求人に向けられ、これらのタグが看護の求人に記載されている割合12.7%を上回っています。従って、「残業なし」「夜勤なし」の労働環境は、少なからず同職種での転職意欲に影響を与えているようです。

各履歴書カテゴリにおける同職種のクリックのうちタグ(「残業なし」「夜勤なし」)の求人をクリックした割合、職種カテゴリごとのタグ(「残業なし」「夜勤なし」)の求人掲載割合を比較したもの。割合を算出するために使用したデータの期間は2022年1月-12月。
各履歴書カテゴリにおける同職種のクリックのうちタグ(「残業なし」「夜勤なし」)の求人をクリックした割合、職種カテゴリごとのタグ(「残業なし」「夜勤なし」)の求人掲載割合を比較したもの。割合を算出するために使用したデータの期間は2022年1月-12月。

結論:同職種への転職意欲は異職種へ行くことの機会損失や労働環境次第、異職種への転職意欲はその求人の参入障壁や業務親和性次第で大きく異なる

Indeedの各履歴書カテゴリから各求人カテゴリへのクリック割合を比較すると、どの職種カテゴリに関心を示しているかは、現職で何の仕事をしているかで大きく異なることがわかります。共通して観測される傾向としては、資格や業務経験が必要な職種カテゴリでは参入障壁が高く異職種からの関心は大きくならないこと、逆に業務内容に親和性がある職種カテゴリ間では互いに関心が大きくなりやすいことが挙げられます。また労働環境の良し悪しは異職種への転職意欲だけでなく、同職種内の転職意欲にも影響することも確認されました。

同職種への転職意欲は、看護で特に強い傾向が確認されました。これは、他職種から看護への転職が難しい参入障壁の問題、資格や業務経験が異職種では活かしにくい機会損失や、「残業なし」「夜勤なし」などの労働環境の多寡に起因していると考えられます。
事務も比較的同職種への転職意欲が高い職種です。他の職種からの転職意欲が集まりやすい状態にもかかわらず、それ以上に事務から事務へ転職しようとする傾向が高いといえます。結果として事務は求職者側にとって競争が激しく、採用ニーズとのミスマッチに繋がっています。この意味で看護と事務では、同職種への転職意欲が高いと言っても事情が全く異なります。

参入障壁が高い職種カテゴリで、異職種からの関心を増やすのは特に難しい問題です。社会的にリスキリングがより進めば、異業種への転職意欲が変わる可能性はあるかもしれません。また企業側が経験のある即戦力を同職種から採用したいと考える場合には、より良い労働環境を整えることが1つの鍵となるでしょう。

 
方法

履歴書データでは、各求職者アカウントが最新のものだけに絞って分析しております。Indeedでの履歴書登録件数は年々増加しており、分析上十分なサンプルサイズとなっています。履歴書カテゴリの配分は、上から小売り(19%)、事務(15%)、製造(7%)、営業(6.4%)、介護(3.8%)、飲食(3.3%)の順番でした。マーケット上のカテゴリ分布については利用可能なデータソースが乏しく把握困難な状況のもと、参考値として2022年の求人データの職種カテゴリの配分*と比較しました。その結果、両者の配分は大きくずれていないことが確認されました。

*求人データのカテゴリ分布は必ずしもマーケット全体を表すわけではないものの、2022年1年間の間に求人として存在していたものは、採用後に労働人口となり、概ねマーケットを反映していると仮定

Indeedの日本の職種カテゴリ別の履歴書割合(左図)と2022年求人割合(右図)について、上位20職種カテゴリを掲載。左図は履歴書データ、右図は求人掲載データより算出。
Indeedの日本の職種カテゴリ別の履歴書割合(左図)と2022年求人割合(右図)について、上位20職種カテゴリを掲載。左図は履歴書データ、右図は求人掲載データより算出。

ヒートマップの図表においては、各履歴書カテゴリから各求人の職種カテゴリへのクリック数を集計し、そのクリック数を履歴書登録者のクリック総数で割った割合を算出して色分けしています。従って、この割合は、職種カテゴリ別の履歴書登録割合に部分的に影響し、小売りなどの履歴書登録割合が大きいカテゴリでは色が濃くなりやすくなります。しかし、そのような職種カテゴリ別の履歴書登録割合への影響よりもカテゴリ間での比較を重視するため、割合の値を対数線形化した上で色分けし、表示する数値においては、対数線形の値から実際の値に戻して表示しています。

同職種クリック率は、行き先求人カテゴリでのクリック数のうち、同職種からのクリック数が占める割合を意味します。異職種クリック率は、履歴書カテゴリ(各現職)でのクリック数のうち、異職種へのクリック数が占める割合を意味します。この場合の異職種のクリック数は、同職種以外の全ての職種を含みます。