主要ポイント

  • 景気は回復基調であり、労働市場もパンデミック以降回復し、2022年9月30日時点の求人数はパンデミック前の2020年2月1日と比べ46.6%増加しています。
  • 求人数の増加は職種カテゴリ間でばらつきがあり、製造やソフトウェア開発、倉庫管理等では大幅に増加する一方、教育、飲食、小売など人との接触が多い職種カテゴリの求人については微増です。職種カテゴリによっては、4週間前に比べ求人数が僅かに減るも、全体としてなお労働需要が旺盛です。
  • 労働需要が旺盛な一方、労働供給は追いついておらず、人手不足が再び深刻化しています。人手不足には、パンデミック前からの原因以外にパンデミックを経て生じた原因(リモートワークとの代替性、消費パターンの戻りと労働の戻りのずれ)もあり、それらについても雇用者は考慮する必要があります。
  • 求職者側にとっては、売り手市場の下、より良い環境を訴求するチャンスが潜在的に高いと言えます。

景気は依然拡大局面

欧州では景気後退に入っていますが、日本では未だそのような兆しは感じられません。内閣府の景気動向指数は、2020年夏以降上昇し続け、2022年は基準となる100を超え、最近の8月においてもなお上昇しています。

内閣府の景気動向指数(コンポジット・インデックス(CI)):景気の拡大局面においても、CI一致指数が単月で低下するなど、不規則な動きも含まれうることから、移動平均値も掲載
内閣府の景気動向指数(コンポジット・インデックス(CI)):景気の拡大局面においても、CI一致指数が単月で低下するなど、不規則な動きも含まれうることから、移動平均値も掲載

求人数も急速に増加し2021年後半は加熱気味、ここ数ヶ月は安定基調

Indeedの求人数は、労働市場の活動をリアルタイムで表す指標です。このデータを使って労働市場の状況を見ていきます。

景気動向と同様に労働市場もパンデミック以降回復してきました。特に2020年、2021年の労働市場において、雇用の回復とパンデミックの経過が密接に関係しています。
2020年5月の第一回緊急事態宣言から求人数が急激に下落し、その後2020年秋は新規感染状況が落ち着いたこともあり、求人数もやや回復しました。2020年冬から2021年春にかけては、デルタ株が急増し、第2回緊急事態宣言が発出され、求人数は再度落ち込みました。

その後、2022年9月30日時点までパンデミック前の基準値(2020年2月1日)と比べて求人数は46.6%伸びました。求人数がおよそ1.5倍増えたということです。求人の伸びは2021年を通じて急速に上昇した後、ここ数ヶ月は少し軟化しています。Indeedのデータは、労働力の需要がパンデミック前よりもずっと高まっていることを示しています。

2020年2月1日を0に標準化した、Indeedの求人数変化率(縦軸:-20%~60%、横軸:2020年2月1日から2022年9月30日まで)。2022年9月30日時点では、求人数は基準値より46.6%高かった。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。
2020年2月1日を0に標準化した、Indeedの求人数変化率(縦軸:-20%~60%、横軸:2020年2月1日から2022年9月30日まで)。2022年9月30日時点では、求人数は基準値より46.6%高かった。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。


都道府県別に見ると、都道府県間で求人数の伸びにばらつきがあるものの、全都道府県で2020年2月1日よりも求人数が伸びています。求人数の増加率が最も小さい県は徳島県(13.3%)で、最も大きい県は長野県(80.3%)でした。東京都の求人数の増加率は44.3%であり、全体平均の増加率46.6%と近い値を示しています。

2022年9月30日時点の求人数変化率(2020年2月1日基準=0%)を都道府県別に示したもの。赤色ほど求人数が伸びており、青色は求人数の伸びが緩やか、白色はその中間である日本全体平均の変化率46.6%を示す。

職種カテゴリによって回復のスピードにはばらつきがある

Indeedでは各職種を54職種カテゴリに区分しています。職種カテゴリ別に見ると、製造や倉庫管理、ソフトウェア開発、人事などの求人数がそれぞれ100%以上増加しました。一方、教育、飲食、小売りなど人との接触が多い職種カテゴリについてはパンデミックの影響と政府移動規制の根強さもあり、10-20%増にとどまりました。4週間前に比べると求人数が減っている職種も多いですが、減少率としては小さく、全体として未だ旺盛な求人数で推移しています。警備については、パンデミック前と比べると107%需要が伸びているものの、4週間前と比べて25%も求人数が伸びているため、時期によって大きく変動しやすい特徴があります。

職種カテゴリ別の求人数変化率の状況。2020年2月1日から2022年9月30日までの求人数の変化率について、「全体平均より良好」な10職種カテゴリ、「全体平均より悪い 」10職種カテゴリを図示したもの。製造、化学技術、ソフトウェア開発など技術を要する職種カテゴリが、基準値に対して最も高い求人数の伸びを表す。
職種カテゴリ別の求人数変化率の状況。2020年2月1日から2022年9月30日までの求人数の変化率について、「全体平均より良好」な10職種カテゴリ、「全体平均より悪い 」10職種カテゴリを図示したもの。製造、化学技術、ソフトウェア開発など技術を要する職種カテゴリが、基準値に対して最も高い求人数の伸びを表す。

雇用者がパンデミックを経て新たに直面している課題

労働需要が高まり雇用情勢が改善する一方で、労働供給が追いついておらず、雇用主は人手不足感の高まりに頭を悩ませています。雇用人材判断DIは、パンデミックによる経済縮小による一時的な人手不足解消がありましたが、それ以降人手不足が深刻化していることを示しています。

雇用人員判断DI:日本銀行の短観より、企業の従業員に対する過不足感の回答(期間:2008Q1-2022Q3)を示したもの。値がプラスの場合は人員過剰気味、マイナスの場合は人員不足気味であることを表す。青色、赤色、黄色の線はそれぞれ、日本銀行の定義に基づく大企業(資本金10億円以上)、中堅企業(同1億円以上10億円未満)、中小企業(同2千万円以上1億円未満)の回答を表す。灰色領域は景気後退期を表す。
雇用人員判断DI:日本銀行の短観より、企業の従業員に対する過不足感の回答(期間:2008Q1-2022Q3)を示したもの。値がプラスの場合は人員過剰気味、マイナスの場合は人員不足気味であることを表す。青色、赤色、黄色の線はそれぞれ、日本銀行の定義に基づく大企業(資本金10億円以上)、中堅企業(同1億円以上10億円未満)、中小企業(同2千万円以上1億円未満)の回答を表す。灰色領域は景気後退期を表す。

失業率はパンデミック以降緩やかに減っており、労働市場はさらにタイトです。非労働力人口割合はパンデミック以降、2021年まではパンデミック前より上昇がみられた期間もあり、労働力参加率自体が下がり雇用率も伸びない状態でした。しかし、2022年からは非労働力人口割合は低下し雇用率が伸びている状況から企業は積極的な採用意向を見せていると考えられます。

生産年齢15歳-64歳における失業率及び非労働力人口割合を示したもの。雇用率は雇用者数を生産年齢15-64歳人口で割ったもの。失業率は失業者数(失業はしているが積極的に求職している人)を労働力人口で割ったもの。非労働力は非労働力人口を生産年齢15-64歳人口で割ったもの。
生産年齢15歳-64歳における失業率及び非労働力人口割合を示したもの。雇用率は雇用者数を生産年齢15-64歳人口で割ったもの。失業率は失業者数(失業はしているが積極的に求職している人)を労働力人口で割ったもの。非労働力は非労働力人口を生産年齢15-64歳人口で割ったもの。

人手不足が深刻化する原因には何が考えられるでしょうか。例えば、高齢化社会による労働力自体の不足、労働環境の悪化、賃金の停滞など、パンデミック前からの慢性的な人手不足に関する課題はありました。しかし、これらの課題に加えて、パンデミックを経て生じた行動変容による課題も考えられ、本節ではこの点について注目したいと思います。

1つ目の観点は、リモートワークの存在により人々のリモートワークに対する関心及びリモートワーク可能な求人への関心が高まったことで、ミスマッチ(求職者と雇用者のニーズのずれ)が加速した可能性があることです。従来はリモートワークをしていなかった労働者がリモートワーク可能な勤務先に転職する、あるいは対面の仕事を避けるといったことが考えられます。この傾向はパンデミックによる健康リスクが去った後も続くと思われます。

リモートワーク可能な求人は徐々に増加しており、Indeedの求人データにおいて、リモート可能な求人数の割合は2022年9月30日時点で求人数全体の7.8%でした。
求職者側もパンデミック以降リモートワークに関心をよせています。リモートワークに関する求人検索は、パンデミック前の2019年では全検索の1%でしたが、2022年では2%を超えるようになりました。緊急事態宣言の期間では検索数が減る傾向ですが、その直前に求職者は駆け込むように検索しているように見られます。

左図はIndeedの求人全体の内、リモートワーク可能な求人数割合、右図はIndeedの検索全体のうちリモートワーク関連の検索数の割合を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得。
左図はIndeedの求人全体の内、リモートワーク可能な求人数割合、右図はIndeedの検索全体のうちリモートワーク関連の検索数の割合を示したもの。灰色は緊急事態宣言の期間を示す。求人検索のデータはIndeedから、緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得。


このようなリモートワークへの関心と、リモートワーク可能な仕事よりもリモートワーク困難な仕事の数の方が多い事実を踏まえると、リモートワーク困難な仕事からリモートワーク可能な求人へ労働者がシフトする行動変容が生じていると考えられます。これは、結果として労働供給が不足していると主張する企業の割合を増やすことに繋がります。

もう1つの観点は、パンデミックの影響を受けた消費習慣が徐々に薄れ、従来の状態に戻ってきている消費パターンと、従来のようには戻らない労働供給との間にギャップが生まれていることです。
消費行動は労働市場の動向に大きく影響します。雇用側は、販売する商品を十分に確保したいと考え、そのために必要な労働者の数を考えます。サービス業も同様です。消費行動に基づく売上予測は、雇用する従業員の数を決定するのです。

パンデミック発生当初、個人消費の財・サービス支出は減少しました。しかし、リモートワーク用のデスクや家具などの購入により、財の支出はすぐに回復しました。総務省統計局「家計調査」によると。2020年8月、2021年8月の家具家事用品の消費は、平均的に2019年8月を上回りました。

旅行・飲食・その他外出による消費等はパンデミック時には控えられ2020年、2021年は確かに2019年よりも消費が低下していました。2020年より2021年の方がさらに低下しているケースも見られます。しかし、2022年8月時点ではこれらの需要は戻りつつあり、特に宿泊消費は平均的にパンデミック前の水準を上回りました。

旅行・飲食・その他外出に関連する職種カテゴリの多くは、人との接触が必要となります。これら職種カテゴリにおける採用は、パンデミック時には控えざるを得ない状況となりましたが、2022年時点で消費が回復してきたため労働力を増やそうとしています。しかし消費の回復とは異なり、労働供給は簡単に戻ることにはなりません。求職者側がリモートワークをより選好する、あるいは働かないことを選択するなどパンデミックを経て労働意識が変わり、労働者が戻ってこない問題や、消費の回復に伴って労働需要スピードが上昇したものの求職者側が追いつかない問題が生じていると考えられます。

パンデミック前の2019年8月の各消費水準を基準値100として、パンデミック以降の2020年8月、2021年8月、2022年8月の指数を図示したもの。消費カテゴリは家計調査の大区分を基準とし、外食と宿泊は、食料と教養娯楽の区分からそれぞれ抜粋。物価考慮のため実質に調整し、季節調整値でないため同月で比較。2022年8月時点で、宿泊消費はパンデミック前の水準を上回っている。
パンデミック前の2019年8月の各消費水準を基準値100として、パンデミック以降の2020年8月、2021年8月、2022年8月の指数を図示したもの。消費カテゴリは家計調査の大区分を基準とし、外食と宿泊は、食料と教養娯楽の区分からそれぞれ抜粋。物価考慮のため実質に調整し、季節調整値でないため同月で比較。2022年8月時点で、宿泊消費はパンデミック前の水準を上回っている。

パンデミックを経て考慮すべき要素として、主に1)リモートワークとの代替性、2)消費回復スピードと労働供給スピードとのずれ、について取り上げました。これら要因の重要性や妥当性について更に検証するためには、求職者調査の結果やミスマッチの分析、インバウンド再開後の労働需給の状況など、継続的な確認が必要です。今後の記事において、関連する結果を展開していきます。

結論: 人手不足・売り手市場は今後も継続し、パンデミックを経ることで新たに浮上した人手不足の問題にも雇用者は対応が必要

労働市場の短期的な見通しとしては、今後も労働者の売り手市場が継続する可能性が高いと言えます。それを支持する材料としては、(1) 景気の悪化の兆しが見られないこと、(2) パンデミックから順調に労働需要が回復してきたこと、(3) リモートワークとの代替性や、財・サービスの提供と採用とのギャップなど、パンデミックを経ることで人手不足について更なる問題が雇用側に生じていること、が挙げられます。

全体としてこのような売り手市場が続く限り、求職者にとっては様々な求人を見比べ、より高い賃金やより良い労働環境を選択していくチャンスです。もちろん職種カテゴリや地域によってチャンスに差異はありますが、それが極端に特定箇所に集中してしまうことは確認されないことから、そのチャンスは幸いにも潜在的には多いと考えられます。

方法

本ブログに掲載されている求人情報は、季節調整済の求人情報に基づいています。2017年、2018年、2019年の過去のパターンに基づいて、各時系列を季節調整しています。全国的な傾向、職業分野、地理的条件など、各時系列は個別に季節調整されています。

緊急事態宣言の期間の情報については内閣官房のホームページから取得しています。
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