主要ポイント

  • 2025年8月のIndeed掲載賃金は前年比上昇率+2.5%と、7月(+2.7%)からわずかに減速。
  • 消費者物価上昇率は2.7%と、前月(3.1%)から落ち着いてきているが、依然として賃金上昇率を上回り、実質賃金の回復には課題が残る。
  • サービス関連の求人シェアが大きい職種(飲食、小売り、介護、運送など)で減速が続き、全体を押し下げ。一方上昇のあった求人シェアが大きい職種(事務、営業など)では小幅な上昇にとどまる。

賃金上昇は緩やかに鈍化

2025年8月の求人掲載賃金上昇率は2.5%(前年同月比の3か月移動平均)の伸びと、前月7月の2.7% (前年同月比の3か月移動平均)から、さらに鈍化が進みました。

Indeed賃金トラッカー、すなわちIndeed掲載賃金上昇率の前年同月比(点線)とその3か月移動平均(実線)の推移を表す。期間は2019年1月から2025年8月まで。
Indeed賃金トラッカー、すなわちIndeed掲載賃金上昇率の前年同月比(点線)とその3か月移動平均(実線)の推移を表す。期間は2019年1月から2025年8月まで。

一方、物価上昇率は8月時点で2.7%であり、同様に、前月(3.1%)からは落ち着いてきているものの、6月以降は賃金上昇率を上回る状況が続いています。

Indeed賃金トラッカー(3ヶ月移動平均)、CPI、Core CPIの推移。期間はそれぞれの最新確定年月(2025年8月)まで記載。
Indeed賃金トラッカー(3ヶ月移動平均)、CPI、Core CPIの推移。期間はそれぞれの最新確定年月(2025年8月)まで記載。

今後、仮に現在の減速ペースが続くとなれば、2025年末には2022年の平均上昇率(約1.7%)水準ぐらいまで低下する可能性があります。その結果、物価調整後の賃金は低下し、労働者にとってさらに厳しい環境が生まれる可能性があります。とはいえ、インフレ率が依然として2022年水準(年平均 Core CPI 前年比2.3%)を上回っていること、労働市場の逼迫が継続していること、そして2026年春闘を見据えた賃金の前倒し上昇の可能性が、賃金上昇率の回復に寄与する可能性があります。

求人シェアの大きい職種で減速が継続

全体の鈍化の背景には、求人シェアの大きいサービス関連職種での減速があります。

  • 飲食:3.8%(前月比▲0.4pt)
  • 小売:3.4%(▲0.5pt)
  • 介護:2.1%(▲0.7pt)
  • 運送:1.9%(▲0.8pt)

一方で、求人シェアの大きい「事務」(3.0%、+0.1pt)、「営業」(3.3%、+0.4pt)、「看護」(3.8%、+0.1pt)などでは小幅な上昇が見られましたが、全体を押し上げるほどの勢いはありませんでした。

過去に4%以上の伸びを記録してきた職種では、一定水準に達した後の自然な調整とも考えられます。。実際に「事務」では3月から減速が続いていましたが、8月にようやく下げ止まりの兆しが見えました。今後、飲食・小売り・介護・運送等でも、減速のスピードが緩やかになるか注視する必要があります。

方法

Indeed掲載賃金上昇率を算出するためにアトランタ連銀の米国賃金上昇率トラッカーと類似のアプローチに従うが、個人ではなく求人を追跡する。まず、国、月、職種、地域、給与タイプ(時給、月給、年収)ごとに掲載賃金の中央値を算出する。次に、それぞれの国において、職種、地域、給与タイプの組み合わせごとに前年比賃金上昇率を計算し、月次分布を作成する。この分布の中央値をその国の賃金上昇率の月次指標とする。手法の更なる詳細事項及び更新情報はこちら

理論上は、名目賃金上昇率は、物価上昇率と労働生産性上昇率の合計にほぼ等しくなる。この枠組みは、日本銀行が目標とするような物価上昇率2%前後労働生産性が仮に約1%で成長する場合、物価安定と生産性向上と一致する名目賃金上昇率は約3%となることを意味する。

Indeed掲載賃金上昇率の算出においては、ベンチマークとなる賃金上昇率や労働需給との相関を、回帰分析等を通じて、常に検証している。詳細は、例えばAdrjan, P. and Lydon, R. (2024) 参照。国際的に見ても、賃金上昇率の鈍化傾向は共通している。

Indeed掲載賃金上昇率について、日本、米国、英国、ユーロ圏を並べたもの。 データは2025年8月まで。
Indeed掲載賃金上昇率について、日本、米国、英国、ユーロ圏を並べたもの。 データは2025年8月まで。

Indeed掲載賃金上昇率を職種別で分析するだけでなく、パートタイムや非正規雇用における動向をより正確に反映するため、時給の掲載データを別途追跡している。

これらの時給の掲載データは、リアルタイムの需給状況に敏感で、年間給与交渉などの制度的要因の影響を相対的には受けにくいことから、短期的な労働市場動向を捉えるのに特に有用と考えられる。

2025年8月時点のIndeedにおける時給の掲載賃金上昇率は3.3%(3か月移動平均ベース)。一方、パートタイム時間あたり名目賃金成長率は最新公表月の2025年7月で3.6%(3か月移動平均ベース)であり、Indeedにおける同年7月の時給の掲載賃金上昇率は3.6%のため、数値は近いといえるだろう。

時給ベースのIndeed掲載賃金上昇率、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年8月まで、名目賃金上昇率:2025年7月まで。) 。3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。
時給ベースのIndeed掲載賃金上昇率、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年8月まで、名目賃金上昇率:2025年7月まで。) 。3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。