主要ポイント
- 2025年7月のIndeed掲載賃金は前年比上昇率+2.7%と、前月(6月)の+2.9%からわずかに減速。減速傾向は続くものの、そのペースは緩やかで、日銀の掲げる中長期の物価安定目標(インフレ率2%)と近年の労働生産性上昇率(+0.6〜1%程度)を踏まえた名目賃金上昇率の理論上の水準(+2.6〜3%程度)とは概ね整合的。
- 一方で、2025年6月時点の消費者物価上昇率は3.1%と、再び賃金上昇を上回る水準に達しており、実質賃金の回復には課題が残る。賃金の伸びが物価に追いつかない状況が続けば、金融政策の舵取りにさらなる難しさをもたらす可能性もある。
- 求人シェアが大きい職種(飲食、小売り、事務、介護、運送など)での継続的な減速、前月まで上昇率が加速していた一部の職種でのソフトランディングが、全体的な減速に作用しているとみられる。
賃金上昇は緩やかに鈍化
賃金上昇は2025年から鈍化に転じ、2025年7月は2.7%(前年同月比の3か月移動平均)の伸びと、前月6月の2.9% (前年同月比の3か月移動平均)から、さらに鈍化が進みました。前回時点では前年同月比自体はわずかに上昇していたため一服する兆しがありましたが、その兆しとは裏腹にわずかに鈍化が進んだ形となります。
2.7%という上昇率は、日本銀行が中長期的な物価安定の目標と掲げる2%インフレと、日本の労働生産性上昇率(近年では時間あたり実質労働生産性で+0.6%~1%程度)を踏まえた場合、「整合的」と考えられる名目賃金上昇率(=2.6%~3%程度)とほぼ近い水準です。
しかし、足元の物価上昇率は7月時点で3.1%に達し、2024年から2025年初頭にかけて見られた「賃金が物価に追いつく」局面から、再び離れつつあります。日本銀行では物価上昇率が今後落ち着く見通しを立てているものの、物価上昇率が想定よりも粘着的に推移しています。この「物価>賃金」の状態が続けば、実態経済への影響が懸念され、金融政策のかじ取りは一段と慎重さが求められる局面と言えるかもしれません。
今後、仮に現在の減速ペースが続くとなれば、2025年末には2022年の平均上昇率(約1.7%)水準ぐらいまで低下する可能性があります。その場合、物価目標の2%を下回り、望ましくない状況となるでしょう。もっとも、2022年時(年平均 Core CPI 前年比2.3%) と比べて現在の物価上昇率や労働移動に伴う賃金上昇圧力は高い水準にあります。また2026年度の春闘を見据えた動きが前倒しでかつ力強く反映されるとなれば、現在の減速ペースから抵抗が見られる余地もあるので、過度な減速については慎重に見極める必要があります。
賃金上昇率が加速し続けていた職種でのソフトランディングと、求人シェアの大きい職種での減速継続が、全体の賃金上昇率鈍化の主な要因
2025年7月時点のデータでは、求人シェアが一定以上(0.1%以上)ある37職種のうち、約7割(73%)で賃金上昇率が前月より鈍化し、前回6月に鈍化を示した職種6割よりも増えました。
具体的には、歯科、マーケティング、医療技術、機械工学では前回までは賃金上昇率が加速し続けていたのに対して、7月になって鈍化に転じました。とはいえ、いずれも前月との差を見れば減速の程度は緩やかであり、ソフトランディングといえます。
保育、医療事務、経営、建設など、前回上昇率が好転した職種においては、引き続き上昇を見せています。
一方、求人のシェアが大きい飲食、小売り、事務、介護、運送などでは、依然として賃金上昇率の鈍化が続いています。これらの職種において、前月との差について前回と比べると、減速が緩やかになる兆しはある一方、ある一定の上昇率に到達するまではスピードを落とさず減速する可能性もあり、減速のスピードについて判断をするには引き続き注視する必要がありそうです。

方法
Indeed掲載賃金上昇率を算出するためにアトランタ連銀の米国賃金上昇率トラッカーと類似のアプローチに従うが、個人ではなく求人を追跡する。まず、国、月、職種、地域、給与タイプ(時給、月給、年収)ごとに掲載賃金の中央値を算出する。次に、それぞれの国において、職種、地域、給与タイプの組み合わせごとに前年比賃金上昇率を計算し、月次分布を作成する。この分布の中央値をその国の賃金上昇率の月次指標とする。手法の更なる詳細事項及び更新情報はこちら。
理論上は、名目賃金上昇率は、物価上昇率と労働生産性上昇率の合計にほぼ等しくなる。この枠組みは、日本銀行が目標とするような物価上昇率2%前後、労働生産性が仮に約1%で成長する場合、物価安定と生産性向上と一致する名目賃金上昇率は約3%となることを意味する。
Indeed掲載賃金上昇率の算出においては、ベンチマークとなる賃金上昇率や労働需給との相関を、回帰分析等を通じて、常に検証している。詳細は、例えばAdrjan, P. and Lydon, R. (2024) 参照。
2025年の春闘賃上げ率(日本労働組合総連合会が公表している春季生活闘争データ)は名目賃金上昇率(所定内給与)との比較においては、前回のタイミングから、最新数値に変更がないため、トレンドは変わらない。米国では、外部労働市場(転職者)の賃金上昇率と内部労働市場(従業員)の名目賃金上昇率の差が縮小し7月時点で同じ値(4.3%)を示すようになってきている。日本でも同様のトレンドが起こるとすれば、外部労働市場における賃金上昇の優位性が徐々に薄れていく可能性があるが、2025年7月時点では外部労働市場の賃金上昇率が高いため、求職者にとってはまだ仕事探しの好機と捉えられる。
Indeed掲載賃金上昇率を職種別で分析するだけでなく、パートタイムや非正規雇用における動向をより正確に反映するため、時給の掲載データを別途追跡している。
これらの時給の掲載データは、リアルタイムの需給状況に敏感で、年間給与交渉などの制度的要因の影響を相対的には受けにくいことから、短期的な労働市場動向を捉えるのに特に有用と考えられる。
2025年7月時点のIndeedにおける時給の掲載賃金上昇率は3.6%(3か月移動平均ベース)。一方、パートタイム時間あたり名目賃金成長率は最新公表月の2025年6月で4%(3か月移動平均ベース)であり、Indeedにおける同年6月の時給の掲載賃金上昇率は4%のため、数値は近いといえるだろう。