主要ポイント

  • 2025年5月のIndeed掲載賃金の前年比上昇率は3.3%。前月よりやや鈍化したが、過去の推移と比べ依然として高水準を維持。
  • 鈍化の背景には、特定職種による影響よりも、春闘の効果が一巡したことや景気・政策をめぐる不確実性といった全体的なマクロ要因があると考えられる。
  • 春闘賃上げ率や名目賃金上昇率の動きとも整合しており、全体として緩やかな調整局面に入っているとみられる。

賃金上昇の加速から鈍化へ – トレンドは転換点を迎えつつある

インフレに連動した賃金期待の上昇、離職率の上昇に伴う労働市場の流動性の増大、春闘の勢いの持続などが相まって、新規求人の賃金は数年間の停滞を経て2024年を通じて上昇しました。Indeedの求人掲載賃金上昇率では、2024年には前年比で4%超を記録する月もあり、他国と比べ決して高くはない伸びではあるものの、それでも最も力強い伸びとなりました。

そこから鈍化に転じ、2025年5月は3.3%の伸びと、前月の3.6%からさらに鈍化が進みました。しかし、それでも2019年から2024年初めまでの最大上昇率(2.0%)より未だ高い水準を維持しています。

Indeed賃金トラッカー、すなわちIndeed掲載賃金上昇率の前年同月比(点線)とその3か月移動平均(実線)の推移を表す。期間は2019年1月から2025年5月まで。
Indeed賃金トラッカー、すなわちIndeed掲載賃金上昇率の前年同月比(点線)とその3か月移動平均(実線)の推移を表す。期間は2019年1月から2025年5月まで。

春闘の影響一巡と慎重姿勢の広がり

この鈍化にはいくつかの背景が考えられます。2025年の春闘賃上げ率(日本労働組合総連合会が公表している春季生活闘争データの最新回答集計(第6回回答集計)は、前回の集計時よりもわずかに下方修正され5.26%となる見通しで、前年の5.1%から小幅な上昇にとどまります。

先行的である「春闘賃上げ率」では2024年、2023年の上昇と比べ上昇幅が小さく、春闘賃上げのムードが外部労働市場の新規採用の賃金に波及する動きが一巡した感があります。また、4月までの採用のピークが過ぎ、5月には採用需要がやや落ち着いた可能性もあります。さらに、世界経済の先行き不透明感や地政学的リスクを背景に、企業が慎重な姿勢を取り戻していることも、更なる賃金上昇においては抑制要因となっているでしょう。

内部労働市場の賃金上昇率を表す、厚生労働省の「毎月勤労統計」による名目賃金上昇率(所定内給与)も、2025年4月時点で1.6%(3か月移動平均)にとどまり、同様に前回の2月時の名目賃金上昇率2%(3か月移動平均)や2024年後期より鈍化が見られます。

米国では、今後外部労働市場(転職者)の賃金上昇率と内部労働市場(従業員)の名目賃金上昇率の差が縮小してきています。日本でも同様のトレンドが今後起こるとすれば、外部労働市場における賃金上昇の優位性が徐々に薄れていく可能性もあります。とはいえ、2025年5月時点ではなお外部労働市場の賃金上昇率が高いため、求職者にとってはまだ仕事探しの好機と捉えられるでしょう。

Indeed掲載賃金上昇率、春闘賃上げ率(日本労働組合総連合会が公表している春季生活闘争データの最新回答集計(第6回回答集計))、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年5月まで、春闘賃上げ率:年1回更新で2025年の回答による賃上げ率、名目賃金上昇率:2025年4月まで。) 。Indeed賃金トラッカーと名目賃金上昇率については3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。春闘賃上げ率については年1回の変化のため前年比のみの推移かつ2025年の回答による春闘賃上げ率の値を表示。
Indeed掲載賃金上昇率、春闘賃上げ率(日本労働組合総連合会が公表している春季生活闘争データの最新回答集計(第6回回答集計))、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年5月まで、春闘賃上げ率:年1回更新で2025年の回答による賃上げ率、名目賃金上昇率:2025年4月まで。) 。Indeed賃金トラッカーと名目賃金上昇率については3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。春闘賃上げ率については年1回の変化のため前年比のみの推移かつ2025年の回答による春闘賃上げ率の値を表示。

多くの職種で賃金上昇率は鈍化 – 例外的に強さを保つ業種・職種も

多くの職種で賃金上昇の鈍化が見られたことから、今回の鈍化は職種別の動向というよりは、全体的な賃金トレンドの変化として捉えるのが自然です。実際に、一定以上(0.1%以上)の求人シェアを持つ職種の83%(35職種中29職種)で、前月より上昇率が鈍化しました。代表例をあげれば、求人が特に多い事務(2025年5月時点求人シェア:5.8%)や小売(同:13.7%)では、それぞれ4.8%・4.7%とまだ高い上昇率を記録していますが、前月よりは0.9ポイント、0.3ポイント上昇率が下がっています。

一方で、一部の6職種では依然として強い賃金上昇が続いています。たとえば「保険」は前月比+1.9ポイントと加速し、「ホスピタリティ・観光」(前月比+0.3ポイント)や「マーケティング」(前月比+0.4ポイント)も上昇幅を拡大しています。これらは、一部の地域で労働市場がより逼迫していることや、季節性によるもの(例:観光需要の準備)、一部の職での労働需要の上昇など業種特性が考えられます。

Indeed掲載賃金上昇率が2025年5月に3%以上を記録した職種カテゴリと、その賃金上昇率および前月との差分(ポイント)を掲載。
Indeed掲載賃金上昇率が2025年5月に3%以上を記録した職種カテゴリと、その賃金上昇率および前月との差分(ポイント)を掲載。

今後、物価や雇用環境の動向などが求人賃金の変化にどう影響するか注視が必要です。引き続き、Indeedの賃金データを通じたモニタリングが重要となると考えられます。

方法

Indeed掲載賃金上昇率を算出するためにアトランタ連銀の米国賃金上昇率トラッカーと類似のアプローチに従うが、個人ではなく求人を追跡する。まず、国、月、職種、地域、給与タイプ(時給、月給、年収)ごとに掲載賃金の中央値を算出する。次に、それぞれの国において、職種、地域、給与タイプの組み合わせごとに前年比賃金上昇率を計算し、月次分布を作成する。この分布の中央値をその国の賃金上昇率の月次指標とする。手法の更なる詳細事項及び更新情報はこちら

Indeed掲載賃金上昇率の算出においては、ベンチマークとなる賃金上昇率や労働需給との相関を、回帰分析等を通じて、常に検証している。詳細は、例えばAdrjan, P. and Lydon, R. (2024) 参照。

Indeed掲載賃金上昇率を職種別で分析するだけでなく、パートタイムや非正規雇用における動向をより正確に反映するため、時給の掲載データを別途追跡している。これらの時給の掲載データは、リアルタイムの需給状況に敏感で、年間給与交渉などの制度的要因の影響を相対的には受けにくいことから、短期的な労働市場動向を捉えるのに特に有用と考えられる。2025年5月時点において、Indeedにおける時給の掲載賃金上昇率は、3か月移動平均ベースで4.4%でした。これは、2025年4月のパートタイム時間あたり名目賃金成長率4.2%(3か月移動平均ベース)とほぼ一致している。

時給ベースのIndeed掲載賃金上昇率、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年5月まで、名目賃金上昇率:2025年4月まで。) 。3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。
時給ベースのIndeed掲載賃金上昇率、名目賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)の推移。期間はそれぞれの最新確定年月まで記載(Indeed掲載賃金上昇率: 2025年5月まで、名目賃金上昇率:2025年4月まで。) 。3か月移動平均の推移(濃線)とその最新月の値を表示。