主要ポイント

  • 日本の女性管理職比率は16%とOECD加盟国の中で最低水準であり、政府は従業員101人以上の企業に公表を義務付ける方針を発表。
  • 女性管理職の登用実績を求人で明示する企業の割合は2025年1月時点で0.76%と低いものの、2019年比で5倍に増加。特にスポーツ(2.14%)、金融(1.92%)、カスタマーサービス(1.54%)などの職種で言及率が高まり、必ずしも女性従業員が多い職種ではなく、女性活躍推進の動きを反映している。また女性管理職の登用実績を求人で明示する企業は、相対的にリモートワーク可能な企業も多い。
  • 労働供給の面では、特に女性は過去の管理職経験がないと管理職応募を控える傾向や管理職のワークライフバランスに対する懸念が観測されており、求人情報の伝え方や未経験者への支援が鍵となる。

日本は女性の管理職比率の低さが課題

女性の活躍推進は、「多様性によるイノベーションの促進」「企業価値の向上」「企業の持続的成長と社会的評価の向上」といった観点で、企業にとって多様なメリットをもたらしうることが、近年の研究や報告で示唆されています。(例:内閣府 男性共同参画局「令和5年度 女性の登用拡大と企業における経済的メリット等に関する調査研究報告書」)

そうした中、日本では、女性の労働供給においては、管理職の女性比率が低いことが特に課題となっています。ILOの統計によれば、日本は、就業者数に占める女性比率は45.4% (2024年)であり、これは他国とも遜色ない水準です。一方、管理職*の女性比率は16.3% (2024年)で、30%を超える国が多い中では低水準でしょう。

*ILOデータの管理職の定義: 管理職の雇用は国際標準職業分類に基づいて定義。この系列は管理職全体(ISCO-08またはISCO-88のカテゴリー1)を指す。詳細については、労働市場関連SDGs指標(ILOSDG)データベースのIndicator 5.5.2の定義を参照のこと。 

各国の就業者数の女性比率と管理職の女性比率を比較したもの。ILOの同データは各国の労働力調査のデータを基にしており、日本の管理職の値は、労働力調査の職業分類における「管理職的職業従事者」での比率と一致することが確認される。日本・韓国・米国は2024年、英国・フランス・ドイツ・オーストラリア・トルコは2023年、カナダは2021年のデータである。
各国の就業者数の女性比率と管理職の女性比率を比較したもの。ILOの同データは各国の労働力調査のデータを基にしており、日本の管理職の値は、労働力調査の職業分類における「管理職的職業従事者」での比率と一致することが確認される。日本・韓国・米国は2024年、英国・フランス・ドイツ・オーストラリア・トルコは2023年、カナダは2021年のデータである。

このような女性管理職比率が低位な状況もあり、厚生労働省は2024年11月26日、女性の管理職比率について、従業員101人以上の企業を対象に公表を義務付ける方針を示しました(施行は2026年4月から予定)。

求人内でも、女性管理職の登用実績をアピールする企業は全体的に増加

企業が持続的成長や社会的評価の向上、労働供給の促進のために、女性活躍推進の取組みを内部労働市場(社内での取り組み等)だけでなく外部労働市場(転職市場)にも広げることは自然なことです。実際に、女性管理職比率や女性管理職の登用経験があることを正社員の求人内で明示する企業割合は0.76% (2025年1月)と小さいものの、6年前の2019年1月に比べると5倍増え、着実に上昇傾向であることがわかります。

女性管理職の登用実績を求人で言及する掲載企業割合の推移。求人は正社員求人のみに絞っている。期間は2019年1月から2025年1月、3ヶ月移動平均をとっている。職種カテゴリの構成割合の変化の影響を考慮するため、2019年の職種カテゴリの構成割合を固定重みとして加重平均して集計。
女性管理職の登用実績を求人で言及する掲載企業割合の推移。求人は正社員求人のみに絞っている。期間は2019年1月から2025年1月、3ヶ月移動平均をとっている。職種カテゴリの構成割合の変化の影響を考慮するため、2019年の職種カテゴリの構成割合を固定重みとして加重平均して集計。

どの職種においても、女性の管理職登用実績に関する言及率は上昇傾向であるものの、職種間で言及率の差は拡大傾向

職種カテゴリ別にみると、ほぼ全ての職種で、女性の管理職登用実績に関する言及率は上昇傾向を示しています。2024年の女性の管理職登用実績の言及率は、スポーツ(2.14%)、金融(1.92%)、カスタマーサービス(1.54%)、医療技術(1.40%)、小売り(1.27%)が上位に並びました。

雇用者数に占める女性比率が高い業種は、「医療・福祉」(75.9%)、「宿泊業・飲食サービス業」(63.9%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(60.6%)、「教育・学習支援業」(57.9%)、「金融業・保険業」(55.2%)、「卸売業・小売業」(53.2%)等です。これらが求人での言及率においても上位になる傾向は一部観測されるものの、必ずしもそうではありません。例えば、事務(0.58%)、看護(0.28%)、医療事務(0.25%)、薬剤(0.15%)は女性従業員が多いと考えられますが、女性管理職登用の言及率は低位にとどまっています。

もう一つの重要な事実は、2024年に言及率が高い職種カテゴリは、必ずしも2019年も他の職種カテゴリより言及率が高いわけではなかったということです。むしろ他の職種カテゴリの方が言及率が高いケースも見られます。結果として2024年までに特定の職種カテゴリが言及率を大きく増やし、それ以外の職種カテゴリの言及率と大きく差をつけた構図です。

また、どの仕事も多様な価値観や視点が求められてきている一方、仕事内容によって多様性の重要度が多少異なることも影響していると考えられます。例えば、最上位の言及率であるスポーツ(職種例:スポーツインストラクター)では、顧客ニーズや事情を理解するため、より女性活躍推進を考える必要性 (例:スポーツ庁による事業推進含む) があるのかもしれません。

これらの状況を踏まえると、言及率が高くなった職種カテゴリの背景には、「一定数の女性従業員がいる中で、女性活躍の推進やその意識が進んだ結果が言及に表れてきている」可能性が十分考えられます。

女性管理職の登用実績を求人で言及する掲載企業割合(2019年と2024年)を職種カテゴリ別に並べたグラフ。求人は正社員求人のみに絞っている。
女性管理職の登用実績を求人で言及する掲載企業割合(2019年と2024年)を職種カテゴリ別に並べたグラフ。求人は正社員求人のみに絞っている。

女性活躍推進の表れは、リモートワークの言及とも関係しているようです。女性管理職実績を言及している求人掲載企業は、リモートワーク可能な割合が2024年で8.9%と、女性管理職実績を言及していない求人掲載企業の同割合4.5%よりも多いことが確認されています。これには、例えば、女性管理職の登用に力を入れている企業は、一般に柔軟な働き方を受け入れやすい、という「企業文化」に基づく可能性があります。あるいは、「女性が活躍しやすい」ことを示すため、女性管理職の実施とリモートワーク可をセットで求人情報に打ち出すなどの、積極的な「企業採用ブランディング」が背景にある可能性が考えられます。

「女性管理職の言及ありの掲載企業グループ」と「女性管理職の言及なしの掲載企業グループ」で、職種カテゴリの構成比をそろえたうえで「2024年におけるリモートワークのシェア」を比較したもの。職種カテゴリによってリモートワークシェアが大きく異なる状況を制御しグループ間の公正な比較を行うため、職種カテゴリの構成比をグループで揃えている。2024年の職種カテゴリの構成割合を固定重みとして加重平均。
「女性管理職の言及ありの掲載企業グループ」と「女性管理職の言及なしの掲載企業グループ」で、職種カテゴリの構成比をそろえたうえで「2024年におけるリモートワークのシェア」を比較したもの。職種カテゴリによってリモートワークシェアが大きく異なる状況を制御しグループ間の公正な比較を行うため、職種カテゴリの構成比をグループで揃えている。2024年の職種カテゴリの構成割合を固定重みとして加重平均。

管理職転職調査の結果から見える、女性の管理職応募率の障壁

企業の女性管理職に対する意識の高まりが外部労働市場 (転職市場) にも表れてきていることが、Indeedの求人データから確認されました。一方で、管理職転職の労働供給面では、ジェンダーの観点で大きな差があるでしょうか。

2024年2月に管理職転職に関するアンケート調査をIndeedで実施した結果、管理職応募率は男性18.6% 、女性 4.1%でした。確かにこの応募率の差14.5ポイントはジェンダーギャップがあるように見えますが、それが「収入や経験の違い」によるものなのか、それとも「単に男性の方が高い状況」なのかは、より詳細に分析しないとわかりません。そこで、同データから、Oaxaca-Blinder 分解の分析を通じて、「ジェンダーギャップがどこから来るのか」を探ることとしました。

その結果、このジェンダーギャップは、年齢・収入・前職・過去の管理職経験の有無などで説明される部分がほとんどであり、非説明部分(ジェンダーギャップそのものの影響)は比較的小さいことがわかりました。とはいえ、非説明部分(ジェンダーギャップそのものの影響)も2.1ポイントと無視はできない他、説明される部分に重要な課題があることを見落としてはなりません。特に「過去の管理職経験がある」ことが、全体の男女差14.5ポイントのうち10.3ポイントと大きく寄与しています。すなわち、女性は過去の管理職経験がないと応募を控えやすいという結果となります。これは管理職未経験でも需要があったとしても、女性側が自己評価の低さによって足踏みしている可能性もありえます。その意味で、女性の応募率向上のためには、求人のコミュニケーション障壁を取り払うことが重要と考えられます。

上図:管理職応募率の男女差を説明される部分と非説明部分の2つに分解したもの。
下図:説明される部分において、各説明変数の寄与度にさらに分解したもの。説明変数は年齢・収入・職経験・結婚有無・地域固定効果等であり、そのうち、寄与度の絶対値が大きいもの、もしくは統計的に有意な箇所について抜粋して掲載。寄与度が大きい順にソート。世帯年収は対数値で表現。
誤差範囲の線は、ブートストラップによる95%信頼区間(1,000回施行)を表す。赤色の棒グラフは統計的に有意な寄与度を表す。
上図:管理職応募率の男女差を説明される部分と非説明部分の2つに分解したもの。
下図:説明される部分において、各説明変数の寄与度にさらに分解したもの。説明変数は年齢・収入・職経験・結婚有無・地域固定効果等であり、そのうち、寄与度の絶対値が大きいもの、もしくは統計的に有意な箇所について抜粋して掲載。寄与度が大きい順にソート。世帯年収は対数値で表現。
誤差範囲の線は、ブートストラップによる95%信頼区間(1,000回施行)を表す。赤色の棒グラフは統計的に有意な寄与度を表す。

加えて、女性側で特に管理職におけるワークライフバランスへの懸念が根強いことも要因の1つになります。「非管理職には応募したが管理職には未応募だった人の、管理職に応募しなかった理由」を男女別に集計すると、ワークライフバランスの懸念が男女ともに最も多い理由 であり、特に女性の回答割合は 36.8% と、男性の 25.6% を大きく上回っています。この結果は、女性が管理職への応募をためらう一因として、働き方に対する不安が強く影響している可能性 を示しています。女性管理職実績に求人内で言及している企業では、既にリモートワークが可能な企業も多いことが確認されますが、引き続きワークライフバランスは重要になってくると考えられます。採用情報の伝え方を工夫し、管理職の働き方に関する不安を払拭することも、女性の応募率向上に向けた重要な取り組みとなるでしょう。

「非管理職には応募したが管理職には未応募だった人の、管理職に応募しなかった理由」について、複数回答したものを男女別に集計し、上位7つの理由を並べたもの。
「非管理職には応募したが管理職には未応募だった人の、管理職に応募しなかった理由」について、複数回答したものを男女別に集計し、上位7つの理由を並べたもの。

方法

使用した求人データは、正社員求人のみに絞っている。

女性管理職登用に関する求人内の言及は、「女性管理職の登用実績」「女性管理職の比率」などの関連キーワードを基にしている。

本分析では、求人単位の言及割合ではなく、求人掲載企業単位の言及割合で算出している。その理由は、単一求人で言及している企業、複数求人で言及している企業を、「少なくとも1つの求人で言及している企業」として公平に評価するためである。

リモートワークは、ハイブリッドワークを含むリモートワーク関連キーワードを基にしている。リモートワークデータの詳細はこちら。また本分析では、「女性管理職の言及ありグループ」と「女性管理職の言及なし グループ」で、職種カテゴリの構成比をそろえたうえで「2024年におけるリモートワークのシェア」を比較している。職種カテゴリの構成比をそろえる理由は、職種カテゴリによってリモートワークシェアが大きく異なる状況を制御し、グループ間の比較を公正に行うためである。職種カテゴリの構成比をそろえるため、職種カテゴリ別の固定重み(2024年の企業数ベースの職種カテゴリシェア)を作成し、職種カテゴリのリモートワークシェアと掛け合わせて加重平均している。またグループ間でシェアに差があるかどうか統計的検定を実施し、差があることが確認されている。

管理職転職調査の主な結果と概要は、Indeedプレスリリース(2024年4月12日)「管理職への転職に関する調査」に記載。本分析では、この調査のローデータを用いて分析。管理職は係長以上の職位と定義。

Oaxaca-Blinder分解(オアハカ・ブラインダー分解)は、経済学や社会学で用いられる統計手法で、主に男女間や人種間の賃金格差を分析する際に使用される。この手法は、例えば

観察される賃金差を「説明できる部分」と「説明できない部分」に分解することで、格差の要因を確認する。説明できる部分は、教育や経験、職種などの労働者の属性の違いによって生じる賃金差である。一方、説明できない部分は、これらの属性で説明できない賃金差であり、差別等の要因が含まれる可能性がある。つまり、同じ経験や教育水準であっても、性別の違いによって賃金に差がある場合、この部分が「説明できない部分」として現れる。Oaxaca-Blinder分解を使った最近の研究は、例えば安井・佐野・久米・鶴(2016) など。

ワークライフバランスあるいは職場環境を表すような変数が同調査のローデータにはなかったため、データの制約上、それらの影響をOaxaca-Blinder分解に組み入れることはできなかった。

また本分析では、女性管理職登用に関する求人内の言及が、女性の応募率向上に寄与しているかまでは、データの制約により調べていない。