主要ポイント
- Indeed上でライドシェアの仕事検索は、2024年4月9日時点で検索数100万件あたり319件であり、政府による一部地域での解禁が発表された2023年12月20日から29倍に急上昇。タクシーの仕事検索と比べても顕著な上昇が見られる。
- 求職者は勤務地を指定せずにライドシェアの仕事検索をする傾向が強く、地域を指定する場合は、ライドシェアを導入することが決まった地域とその周辺を中心に検索する傾向がある。
- 求職者の間でライドシェアの仕事への関心が高まっているのは、副業や柔軟な働き方の魅力によるところが大きい。求職者がライドシェアの求人をクリックする検索キーワードに「副業」や「スキマ時間」が含まれる割合が、他の職種やタクシードライバー全体をクリックする場合よりも大きく上回る。
ライドシェアの仕事検索は、解禁することが決定してから急上昇
2024年4月、ライドシェアが東京都、愛知県、神奈川県、京都府の一部地域で解禁となりました。この規制緩和によって、人手不足のドライバー業界(「方法」を参照)において新たに追加的な労働供給が期待されます。
政府は2023年12月20日に開催された第3回デジタル行財政改革会議にて、タクシー事業者が管理するなどの一定の条件下のもとサービス提供が認められる「日本版ライドシェア」の解禁を表明しました。東京都や京都府では2024年4月8日より実際に運用が開始され、神奈川県、愛知県においても順次運用が開始される予定です。また5月以降、札幌市、仙台市、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県の一部地域への拡大が予定されています。さらに政府は制度の運用状況を鑑み、同年6月を目途にタクシー事業者以外のライドシェア事業への参入制度の創設に向けた取りまとめを行う方針を示しています。
Indeed上でライドシェアの仕事検索は、2024年4月9日時点で検索数100万件あたり319件であり、発表時(2023年12月20日)から急上昇しています。
政府発表のあった2023年12月20日以前では、求職者はライドシェアのドライバーとして働く機会が限られていたため、ライドシェアの仕事検索トレンドは、恒常的に関心を有するタクシーの検索トレンドより低位でした。しかし、ライドシェアの検索は、2024年4月9日時点には、2023年12月20日(政府発表のあった日)の28.7倍となっています。同期間中、タクシー検索はわずか1.2倍の増加でした。
勤務地検索の動向: 勤務地指定なしの検索が圧倒的だが、導入地域への期待感あり
2024年4月から東京都、愛知県、神奈川県、京都府の一部地域で導入が決まっている一方で、今後の導入地域については流動的かつ未だ不透明な状況です。またライドシェアの仕事は、必ずしも固定の勤務場所が定まっていないという特徴があります。このような背景により、ライドシェアの仕事検索(以下、ライドシェア検索)においては勤務地域を指定しない(ブランク)割合が6割を占めます。これは、「タクシー」のキーワードで仕事検索をする場合(以下、タクシー検索)の勤務地を指定しない割合、あるいは仕事検索全体(以下、全検索)における勤務地を指定しない割合(それぞれ11.5%、15.0%)と比べて大きな差があります。
勤務地の都道府県を指定して検索する場合では、ライドシェア検索において、東京都が12.9%と大きなシェアを占め、タクシー検索や全検索の場合と比べて、特定の検索都道府県に偏る傾向があることがわかります。
勤務地を指定しない場合(ブランク)を除いてシェアを算出すると、東京都、大阪府、愛知県、埼玉県、京都府、千葉県、神奈川県の7県では、ライドシェア検索の都道府県シェアが、タクシー検索の場合と全検索の場合の都道府県シェアを上回ります。これは、「大都市圏だから」という理由だけではなく、ライドシェアの導入が決まっている地域及びその周辺で検索が集中しやすいことを示唆しています。その理由としては、例えば京都府は全検索数としては都道府県の中で大きくない(ブランクを除いて第14位)一方で、タクシー検索ではより上位(第10位)に、ライドシェア検索ではさらに上位(第7位)に位置することが挙げられます。大都市圏を有する福岡県や北海道ではライドシェア導入地域からは地理的に遠く、結果としてタクシー検索や全検索での都道府県シェアがライドシェア検索を大きく上回ります。
副業や柔軟な働き方が、求職者にとって魅力
求職者のライドシェアに対する関心が急速に高まっていることが明らかになった一方、求職者はライドシェアの仕事のどの点に魅力を感じているのかを把握することも重要です。求職者が検索中にどのようにライドシェアの仕事にたどり着いたかを確認することで、関心の理由を探ることができます。そのため、ライドシェアの求人をクリックした人が、どのような検索キーワードで仕事検索をしているか、そしてそれはタクシーの求人や求人全てをクリックした場合とどのように異なるのか、を調べました。
ライドシェアの求人クリックの内、「ライドシェア関連」で検索した割合(直接的に「ライドシェア」と検索する場合や「車持ち込み等」ライドシェアと関連が深い検索ワードを含む)は23.9%でした。次いで「シニア関連」(13.2%)、「ドライバー」(10.4%)、「ブランク(空欄)」(12.1%)、「タクシー」(8.6%)、「副業/スキマ時間関連」(8.1%)が上位のキーワードとして並びます。注目すべきは、「シニア関連」「副業/スキマ時間関連」が、他の仕事探しでも共通するキーワードでもあるにも関わらず、上位に並ぶ点です。
この点を分析するため、、タクシードライバー求人をクリックした人、および求人をクリックした人全体における、「シニア関連」「副業/スキマ時間関連」の検索割合について比較しました。
「シニア関連」の検索割合については、ライドシェアの求人クリックの場合(13.2%)は、求人クリック全体の場合(4.5%)を大きく上回りますが、タクシーの求人クリックの場合(11.3%)と比べると上回るとはいえ大きな差ではないことがわかります。これは、シニア層がライドシェアに関心の高さを示しつつ、その関心はタクシードライバー業界要因によるところが大きいことを示唆しています。タクシードライバー業界要因、すなわちシニアと検索してドライバーの求人が見つかりやすい理由は、職種カテゴリの中でもドライバーの求人(ライドシェア含む)に「シニア活躍中」などのシニアの言及率が大きいためであると考えられます。
一方で、「副業/スキマ時間関連」の検索割合については、ライドシェアの求人クリックの場合(8.1%)は、タクシーの求人クリックの場合(3.1%)や求人クリック全体の場合(3.3%)を大きく上回ります。すなわち、ライドシェアの関心の理由は、相対的には「副業/スキマ時間関連」の特徴的な働き方に強く表れていることを意味します。「副業/スキマ時間関連」の構成要素と定義している「副業」「土日のみ」「スキマ時間」「週1~2日」の内、特に「副業」「スキマ時間」の検索割合が、タクシー求人をクリックした人や求人をクリックした人全体における割合と比べ大きいことも特徴的です。
タクシードライバー不足の解決に向け、短時間でも働ける人数を増やす取り組みが鍵
人手不足の問題を緩和するためライドシェアによる労働需要が今後増加することが予想されますが、本分析により、興味深いことに、労働供給する求職者側のニーズとも合っている可能性が示唆されました。
具体的には、求職者の関心が急激に高まっており、その背景として労働参加余地が大きく働く意欲のあるシニア層からの関心や、副業・スキマ時間といった、自由度の高い働き方や仕事を希望する求職者からの関心があると言えます。このような短時間でも働ける人数自体を増やす取り組みである「拡大的マージン(extensive margin) 」による対応は、結果としてより多くの潜在的な求職者ニーズを満たしやすく、人手不足の緩和にも繋がることが期待されます。この拡大的マージンによる労働政策や規制緩和は、人材不足が深刻な地域への対策として、あるいは、人材不足が深刻であるがサービス需要が落ちにくい業界、ひいては労働人口の減少が著しい我が国全体にとって、今後も重要な取り組みの1つになってくるでしょう。
方法
タクシー運転者数と訪日外客数の推移は以下の通り。
Indeed上で検索されたキーワードをもとに仕事検索数を集計。それぞれのキーワードの定義は以下の通り。
- ライドシェア関連
- ライドシェア:ライドシェア、シェアライドを含む
- 車持ち込み等:自家用車、車持ち込み、普通免許など、自家用車または既存のライセンスで仕事が可能な意味を含む
- シニア関連: シニア、中高年、高齢者、50歳/50代、60歳/60代、70歳/70代を含む
- ドライバー:ドライバー、運転、配送等を含む
- タクシー:タクシーを含む
- 副業/スキマ時間関連:
- 副業:副業、W(ダブル)ワークを含む
- スキマ時間:スキマ、空いた時間、短時間を含む
- 週1~2: 週1、週2のワードを含む
- 土日のみ:土日のみ、土日祝のみ、週末のみなどを含む