主要ポイント
- 求人情報内で育休に言及することが一般的になってきています。企業が掲載した求人のうち育休に言及する割合は、正社員(無期)求人では、2021年まで伸びその後は安定的に推移し2023年1月は34.8%、正社員以外(有期)求人では、2021年から伸び2023年1月は10.2%です。人材獲得競争の中で、日本の採用企業側は育休をアピールしていることを示唆しています。
- 育児休業法改正後の期間では、正社員(無期)求人も正社員以外(有期)求人も沖縄県で育休言及率が最も高い結果でした。
- 求人情報における育休の言及は、女性就業者が多い職種で多くなっています。情報システムなど一部の男性就業者が多い職種で、育休の言及率が前年より増加しているものの、男性就業者が多い職種の大部分で、育休の言及率は大きく変化していません。
日本の育休の仕組み
日本には、国が支給する「育児休業」制度(以降、「育児休業」と呼ぶ。)と、会社によって定められている「育児目的休暇」制度(以降、「育児休暇」と呼ぶ。)の2つの制度があります。
- 育児休業
- 原則、子どもが1歳になる前の会社員が育児を目的とした休みを取れる制度
- 法律に規定された権利ですので、会社に制度があるかどうかにかかわらず、一定の条件を満たしている会社員なら男女とも取得可能。
- 取得可能期間は、男性の場合は子どもが生まれてから、女性の場合は産後休業を終えてから、子どもが1歳の誕生日を迎える前日までのうち、希望する期間。
- 給付金は原則、休業開始時賃金日額x支給日数x67%、6か月以降は50%
- 育児休暇
- 会社の規定に定めがなければ、利用できない。
- 分割して取得可能な制度。
- 有給、無給は会社の定めによる。
- 有期契約労働者も対象とする必要がある。
(出所:介護・育児休業法2017年改正)
「育児休暇」は、育児・介護休業法改正(2017年10月施行)によって、小学校就学前の子どもをもつ会社員が、育児目的で利用できる休暇を設けることが、事業主の努力義務とされました。さらに同法の改正によって2022年10月以降から、「産後パパ育休」の設定など、育児休業での適用範囲が拡大しています。加えて、2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業では、男性労働者の育児休業取得率の公表が必要となります。
本分析では、求人の文言に育児休業・育児休暇いずれかを意味するフレーズを育休に言及しているものとして、分析対象とします。これらをあえて区別せず分析する理由がいくつかあります。
1つ目は、技術的な問題であり、文字として区別したとしても、求人を出す採用側が明確に区別して文言を記載しているかを判断することが困難であることです。育休という短縮形がよく使われていることも、さらに識別を難しくしています。
2つ目は、採用側が育児休業の意味で使っている場合も育児休暇の意味で使っている場合も、どちらの意味であったとしても、「企業が育休に対する受け入れ体制をアピールしているか」という今回の分析目的に合致することです。仮に育児休業の意味で使っている場合、国によって定められているため、企業が求人に記載する必要性の有無について議論はある一方で、未だ育児休業取得率が高くない状況(2021年度時点の育休取得率は女性85.1%、男性13.97%、有期労働契約者では女性68.2%、男性14.2%)においては、採用企業自体が受け入れ体制をアピールするためには記載意味があると考えられます。また育児休暇の意味で使っている場合、育児休業よりは一般的に利用されていないがオプショナルに利用できる意味で、これも企業にとって育休の受け入れ体制をアピールすることとなります。
育休が求人に言及されている程度や地域・職種によるトレンドの違いに着目します。
育休に言及している求人は増加傾向
育休への言及は、求人情報において一般的になってきています。
- 正社員(無期)求人では、言及割合が2021年まで伸びその後は安定的に推移し2023年1月は34.8%でした。正社員以外(有期)求人では、言及割合が2021年から伸び2023年1月は10.2%でした。
- 重要なことに、最近では正社員以外(有期)求人で育休言及率が上昇傾向であることです。これは、育児休業法改正項目の中で「有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和」(2022年4月1日施行)が一部影響している可能性があります。
地域別での傾向
育児休業の改正内容には、2022年4月施行のものと2022年10月施行のものがあります。男性の育児休業取得促進のため改正した内容が施行される時期には2022年10月からのものもあるため、2022年10月から2023年1月を改正後の期間として、前年同月期間との比較を行います。
求人情報における育休の言及率は都道府県によって異なるものの、全般的には改正後の期間(2022年10月-2023年1月)の方が前年改正前(2021年10月-2022年1月)よりも増加傾向です。正社員の求人では全都道府県のうち過半数で、正社員以外の求人では全都道府県のうち6割で言及率が増加しました。正社員の求人では言及率の増加程度が高くないように見えますが、2021年には既に言及されることが増えていたためであり、更に前年の2020年10月-2021年1月と比較すると、7割超の都道府県で言及率が増えています。
正社員求人も正社員以外の求人でも、育休に言及している割合が高かったのは沖縄県でした。沖縄県は育休制度が十分周知され男性も育休取得率が高く(例:積水ハウス「男性育休白書2022」)、企業も育休に言及するという好循環が生まれています。また非正規雇用の割合は沖縄県が最も高く、その実態に合わせて正社員以外の求人でも育休が言及されることが多いと考えられます。
東京都の正社員求人の育休言及割合は39%と、都道府県の中で3番目に大きい数値でした。ただし正社員以外求人の育休言及割合は9%であり、正社員求人で言及との差が都道府県の中で最も大きい状態でした。
女性就業者が多い職種カテゴリの育休の言及が、全体を牽引している
職種カテゴリを女性の従業員割合の大小で区分すると、育休に言及している求人は、女性就業者の多い職種カテゴリに多く、それらの職種で言及割合が伸びています。一方、女性の就業者割合が小さい職種カテゴリでは言及の割合が変わっていません。
育休の言及割合とその伸び率が高い職種カテゴリは、保育、美容・健康、薬剤、看護、保険など女性の就業者の多い職種カテゴリであることが確認されます。
情報システムなど一部男性の就業者の多い職種カテゴリにおいても、言及率の伸びが確認されますが、警備、建設、運送、製造など、男性の就業者の多い職種カテゴリの多くでは、育休の言及率が伸びていません。したがって、男性の育児休業取得促進のため制度が改正されても、それは女性就業者を一定数有し育休制度及び制度の労働者ニーズに対する理解がより進みやすい職種で言及率を伸ばすことにはなりましたが、男性就業者の多い職種で育休を言及することには未だ至っていないことを示しています。
男性の育休取得率の向上にも課題あり
男性の育休取得率は近年急上昇傾向にあるものの、家事・育児負担が女性に偏っている状態は依然として課題です。そうした中で、政府は男性の育休取得を促す段階的な育児休業法改正を行ってきました。しかし、求人内の育児への言及率は全体として増えているものの、男性の従業員の多い職種の多くでは、女性の従業員の多い職種と比べて、求人内の育休言及率が一般的になっていないことが確認されました。2023年4月から、従業員が1,000人を超える企業で男性労働者の育児休業取得率の公表が義務化されるにともなって、求人においても育休に関する企業の意思が更に現れてくることが期待されます。
方法
Indeedに掲載されている育休を言及している求人情報は、求人情報のタイトルや説明文に「育休」などの関連ワードが含まれているかどうかを判断することで識別している。
正社員(無期)は雇用形態の中で正社員、時短正社員といった区分で無期雇用を表す。正社員以外(有期)は、契約社員、パート・アルバイト、嘱託、請負、派遣など明確に正社員以外の雇用形態が表記されるもの、また基本的に有期雇用であるものを表す。
育児休業法の改正内容が4月ないし10月施行となるもので構成され、その施行時期の影響を含める期間として各年10月から翌年1月の期間を分析対象期間とした。
都道府県別の非正規雇用割合は、平成29年就業構造基本調査結果(総務省統計局)を基にしている。
Indeedの求人データの職種カテゴリを厚生労働省「令和元年版働く女性の実情」の職種カテゴリにマッピングして分析した。