キーポイント

  • アジア太平洋6カ国の求人情報の9割が、何らかのデジタルスキルを要求している。46%が基礎スキル、28%が中級スキルを要求。
  • 2019年から2024年にかけてのデジタルスキル向上は、低・中デジタル職種で広範に進んでいる。以前は限られたデジタルスキルしか求められなかった仕事が、今では基礎または中級レベルを要求するようになっている。
  • ソフトウェア開発やデータ分析といったテック職種でデジタル化度の高い求人の比率が最も高いものの、変化のスピードが最も速いのはテック職種ではない。スポーツ、教育、建設といった伝統的に低デジタルだった職種で、デジタルスキル要件の伸びが最も大きい。
  • デジタルスキルには大きな賃金プレミアムがつく。デジタルスキルを必要としない仕事と比べて、基礎スキルで約3.6%、中級で約11%、上級で約26%高い。さらにAI関連スキルは、約3.6〜6%の追加プレミアムを生む。

アジア太平洋地域では、デジタルツールが日常生活の一部となり、労働市場もこの流れに追随しています。教師であれ、店員であれ、エンジニアであれ、雇用主は労働者がテクノロジーを使いこなせることを期待するようになっています。しかし最近まで、政策立案者は、この地域の労働市場にデジタル技術がどれほど浸透しているのか、そして雇用主が実際にどのスキルを最も評価しているのかについて、限られたエビデンスしか持ち合わせていませんでした。

このギャップを埋めるため、アジア開発銀行と共同で、オーストラリア、インド、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポールの6カ国において、2019年から2024年までのIndeedの求人情報600万件超を分析しました。各求人について、求められるデジタルスキルのレベル(なし、基礎、中級、上級)とAIスキル(なし、AIの利用、AIの開発)を分類しました。

結果は明確です。デジタルスキルはもはやテック業界の専売特許ではありません。幅広い職種に広がり、雇用主がほぼあらゆる分野の労働者に期待するものを変えつつあります。

いまや、デジタルスキルはほとんどの仕事で求められる

6カ国平均で、求人の46%が少なくとも基礎的なデジタルリテラシーを求めています。Eメール、簡単なプレゼンテーションの作成、スプレッドシートへのデータ入力などです。28%は中級スキル、つまりオンラインコンテンツの管理から基本的なコーディングまで、幅広い能力を求めています。そして13%が上級デジタルスキル、すなわちプログラミング、クラウドコンピューティング、AIやビッグデータの扱いを要求しています。デジタルスキルをまったく必要としない求人は、わずか13%にすぎません。

デジタルスキル要件(なし、基礎、中級、上級)別に分類した求人の割合を、6カ国平均で示した棒グラフ。平均すると、デジタルスキルを必要としない求人は13%にすぎない。
デジタルスキル要件(なし、基礎、中級、上級)別に分類した求人の割合を、6カ国平均で示した棒グラフ。平均すると、デジタルスキルを必要としない求人は13%にすぎない。

これらの割合は国によっても多少異なります。インドとシンガポールでは、テック・サービスセクターが大きいこともあり、上級・中級デジタル要件の求人が半分以上を占め、デジタル化度の高い求人の比率が高い傾向です。一方、オーストラリアとフィリピンでは、デジタル要件が比較的低い職種の比率が高くなっています。ただし、重要なことは、デジタル要件の基礎、中級スキルの割合がどの国も高いということです。

6つのアジア太平洋経済圏について、求められるデジタルスキルレベル(なし、基礎、中級、上級)別の求人割合を示した横向き積み上げ棒グラフ。2019〜2024年平均。インドとシンガポールは中級・上級スキルを要求する求人の比率が最も高く、一方オーストラリアとフィリピンは基礎スキルの求人の比率が高い。
6つのアジア太平洋経済圏について、求められるデジタルスキルレベル(なし、基礎、中級、上級)別の求人割合を示した横向き積み上げ棒グラフ。2019〜2024年平均。インドとシンガポールは中級・上級スキルを要求する求人の比率が最も高く、一方オーストラリアとフィリピンは基礎スキルの求人の比率が高い。

追い上げるのは低・中デジタルの仕事

注目すべきは、デジタルスキルの向上が幅広い職種で進んでいる点です。2019年から2024年にかけて、デジタルスキル要件の最大の変化が起きたのは、テックのようなすでに高デジタルの職種ではなく、過去デジタルの進んでいなかった低位・中位の仕事でした。

職種を2019年時点の平均デジタルスキルスコアに基づいて、低デジタル(スコア0.33以下)、中デジタル(0.33〜0.67)、高デジタル(0.67以上)の3グループに分類しました。各グループの姿を具体的に見ると、2019年の低デジタル職種(教師、看護師、配達ドライバーなど)では、約45%がデジタルスキルをまったく必要とせず、残りの大部分も基礎レベルのみの要求でした。中デジタル職種(カスタマーサービス担当、事務アシスタント、マーケター、プロジェクトマネージャーなど)では、大多数がすでに基礎または中級スキルを要求していました。高デジタル職種(ソフトウェアエンジニア、ビジネスアナリスト、グラフィックデザイナーなど)では、ほぼすべての求人が中級または上級スキルを必要としていました。

2019年のデジタルスキルスコアで分類した低・中・高デジタル職種ごとに、2019年から2024年にかけて、デジタルスキル要件の分布の変化を示す3パネルの棒グラフ。低デジタル職種では「デジタルスキル不要」の求人が最も大きく減少し、中デジタル職種では中級スキル需要の増加が最大。高デジタル職種ではほとんど変化がない。
2019年のデジタルスキルスコアで分類した低・中・高デジタル職種ごとに、2019年から2024年にかけて、デジタルスキル要件の分布の変化を示す3パネルの棒グラフ。低デジタル職種では「デジタルスキル不要」の求人が最も大きく減少し、中デジタル職種では中級スキル需要の増加が最大。高デジタル職種ではほとんど変化がない。

看護師、ドライバーといった伝統的に低デジタルな職種、つまり2019年時点でデジタルスキルをまったく必要としないのが通常だった職種では、「デジタルスキル不要」の求人の割合が1.3パーセントポイント低下し、基礎スキルを要求する割合が1pp、中級スキルが0.3pp上昇しました。中デジタル職種でも同様の傾向が見られ、基礎スキルの需要が1.7pp減少する一方、中級スキルの需要が2.6pp増加しました。

一方、ソフトウェアエンジニアやグラフィックデザイナーのような高デジタル職種、つまりすでに上級スキルが要求されていた職種では、相対的に変化は小さくなっています。これらの職種はすでに高度にデジタル化されており、さらなるスキルアップの余地が限られていることを反映していると考えられます。

すなわち、アジア太平洋地域の仕事のデジタル化は、デジタルの底上げの動きであり、幅広い職種の労働者に、5年前よりもテクノロジーを使いこなすことを求めているのです。

変化の主役はどの職種か

各職種は、どれほどデジタル化が進んでいるのでしょうか。下のチャートは、2024年にアジア太平洋6カ国平均で、約50の職業カテゴリ別にデジタルスキルレベル別の求人割合を示しています。

トップには、ソフトウェア開発、データ&アナリティクス、ITシステム&ソリューションが並び、求人の大半が中級または上級スキルを要求し、ほぼ完全にデジタル化された領域です。しかし、より興味深いのは、デジタル要件が以前低デジタル職だった職種にまでどれほど及んでいるかという点です。下位3分の1に位置する職種──ホスピタリティ&観光、警備、運送・物流サポート、小売でさえ、メール、オフィスソフトウェア、POSシステムなど少なくとも基礎的なデジタルスキルを求人の相当部分が必要としています。建設、生産&製造、設置&メンテナンスは全体のデジタル化度では下位ですが、それでも求人の4分の1以上で何らかのデジタル能力が求められます。真にデジタルスキルが不要と言える求人が過半を占めるのは、ごく一部の最下位の職種──清掃&衛生、運転、調理──だけです。つまり、デジタルリテラシーはホワイトカラーやテック関連だけでなく、ほぼ全職業で前提となる能力になっていることを意味します。

2024年、アジア太平洋6カ国平均で、職種別にデジタルスキルレベル(なし、基礎、中級、上級)の求人割合を示した横向き積み上げ棒グラフ。デジタル化度でソートされ、上位はソフトウェア開発、下位は清掃&衛生。2024年の求人件数が少ない小規模な職業カテゴリは除外。
2024年、アジア太平洋6カ国平均で、職種別にデジタルスキルレベル(なし、基礎、中級、上級)の求人割合を示した横向き積み上げ棒グラフ。デジタル化度でソートされ、上位はソフトウェア開発、下位は清掃&衛生。2024年の求人件数が少ない小規模な職業カテゴリは除外。

どこで変化が起きているのかを明らかにするため、各職種の2019年から2024年にかけてのデジタルスキルスコアの変化を2つの要素に分解しました。Adoption(導入)は、デジタルスキルをまったく必要としなかった状態から、少なくとも何らかのデジタルスキルを要求する状態へと移行した求人の割合の増加を捉えます。たとえば、フィットネストラッキングアプリや動画分析ツールを期待するようになったスポーツコーチング、オンライン採点システムやバーチャル教室プラットフォームを求めるようになった教育職、POSシステムや在庫管理のスキルを求めるようになった小売職、プロジェクト管理ソフトへの習熟を求めるようになった建設業などが該当します。Upgrading(向上)は、すでに何らかのデジタル能力を要求していた求人の中で、より高いスキルレベルへとシフトした部分を捉えます。たとえば、SNS管理に加えてデータ分析やキャンペーン最適化も求めるようになったマーケティング職、基本的なスプレッドシート利用からデジタル引受・クレーム管理ツールへとシフトした保険業、シンプルな物件掲載ソフトからCRMプラットフォームへと進化した不動産職、基本的な記録管理から自動調剤システムへと移行した薬局職などです。

図:2019年から2024年にかけての職種別デジタルスキルスコアの変化(パーセントポイント)を分解した横向き棒グラフ、アジア太平洋6カ国平均。薄い色がadoption(導入:デジタル不要からなんらかのデジタルスキルを求めるようになった変化)、濃い色がupgrading(向上:デジタルスキルをなんらか求めていた状態からさらにレベルアップしたスキルを求める状態への変化)、ダイヤマーカーが総変化。 
図:2019年から2024年にかけての職種別デジタルスキルスコアの変化(パーセントポイント)を分解した横向き棒グラフ、アジア太平洋6カ国平均。薄い色がadoption(導入:デジタル不要からなんらかのデジタルスキルを求めるようになった変化)、濃い色がupgrading(向上:デジタルスキルをなんらか求めていた状態からさらにレベルアップしたスキルを求める状態への変化)、ダイヤマーカーが総変化。 

最大の変化は、伝統的に低デジタルだった職種に現れています。スポーツ、教育関連、建設はそれぞれ4〜7パーセントポイントの上昇を見せ、その背景には、初めてデジタルスキルを要求するようになった求人(adoption (導入))と、すでに基礎能力を求めていた職がデータ分析、プロジェクト管理ソフトウェア、デジタルコンテンツプラットフォームといった中級ツールへとシフトした動き(upgrading(向上))の両方があります。

中デジタル職種では、小売と保険が際立っています。例えば小売職は在庫管理システム、Eコマーススキル、CRMソフトウェアをますます必要とし、保険の求人はかつての基本的なスプレッドシート利用の域を超えて、データ分析やデジタル引受ツールを日常的に求めるようになっています。

反対に、ソフトウェア開発やデータ&アナリティクスなど、すでに高度にデジタル化された職種の変化は小さく、調理や清掃&衛生といった体を使う職種も同様です。前者はすでに上級要件で飽和状態にあり、後者はまだデジタルツールによる再構築が及んでいないためです。

ほぼすべての職種に共通して現れるのは、adoption(導入)が広範に見られ、変化全体の大きな部分を占めるというパターンです。デジタル化は、すでにデジタルツールを使う労働者への要求水準を上げるだけの話ではありません。これまでデジタルスキルを必要としなかった仕事にデジタル能力をもたらす動きでもあるのです。

デジタルスキルとAIスキルには大きな賃金プレミアムがある

デジタル化は、賃金の上昇に明確につながっています。Indeedの掲載賃金データを用いて、国、職タイトル、給与形態、地域、企業、時間、様々な非デジタルスキル要件をコントロールした上で、各デジタルスキルレベルに対応する賃金プレミアムを推計しました。つまり、非常によく似た仕事でデジタルスキル要件があるものとないものを比較し、平均給与の差を計算しています。

デジタルスキルレベル別の賃金プレミアムを、デジタルスキルを必要としない仕事との比較で示した棒グラフ。基礎デジタルスキルを要求する仕事は約4%、中級は約11%、上級は約26%高い賃金を提示している。さらに、デジタルスキルレベルをコントロールした上で、AI活用スキルを必要とする職種は3.6%、AI開発スキルを必要とする職種は6%のプレミアムがつく。
デジタルスキルレベル別の賃金プレミアムを、デジタルスキルを必要としない仕事との比較で示した棒グラフ。基礎デジタルスキルを要求する仕事は約4%、中級は約11%、上級は約26%高い賃金を提示している。さらに、デジタルスキルレベルをコントロールした上で、AI活用スキルを必要とする職種は3.6%、AI開発スキルを必要とする職種は6%のプレミアムがつく。

勾配は急です。デジタルスキルを必要としない仕事と比べて、基礎デジタルスキルを要求する仕事は約4%、中級スキルを要求する仕事は約11%、上級スキルを要求する仕事は約26%高い給与を提示しています。 スキルレベルの変化すなわち”デジタルのはしご” を一段のぼるごとに、同一職タイトル・同一企業内で、意味のあるプレミアムが積み上がっていきます。これは、給与の高い職業に転職しているという話ではありません。今の役割の中で、雇用主がデジタル能力にどれほどの価値を置いているかを示しているのです。

AI利用のスキルには、さらにプレミアムが上乗せされます。大規模言語モデルの統合やデータ分析へのAI応用など、労働者にAIツールの使用を求める仕事は、デジタルスキルレベルをコントロールしても、その他の条件が同じ求人よりも約3.6%高い賃金が支払われます。同様に、AI開発スキル(AIシステムをゼロから構築または微調整するスキル)を必要とする職種は、約6%のプレミアムが上乗せされます。

そしてこのプレミアムはさらに重要になりそうです。というのも、AIに対する需要は加速しているからです。たとえばオーストラリアでは、2025年末時点で求人の5.8%がAIに言及しており、1年前の2倍の水準です。同様に、2022年後半のChatGPTの登場以降、AI利用を要求する中級スキル求人の割合は2倍以上となり、2024年末には2%近くに達しました。上級スキル求人では、その割合はほぼ11%にまで上昇しています。もはやテック企業に限られたニッチな動きではありません。コンサルティング、エンジニアリング、マーケティング、医療といった幅広い業界で、AIを構築するだけでなく、AIと協働できる人材が求められているのです。

データが意味すること

データが示しているのは、アジア太平洋地域の労働市場でデジタルスキルが前提条件になりつつあるということです。

労働者、特に中デジタルスキル職種で働く人々にとって、デジタル要件は今後も求められ続ける可能性が高いでしょう。基本的なものであっても、実務的なデジタルツールの学習に投資することは、意味のある賃金リターンをもたらしえます。

雇用主にとっても、この急な賃金勾配は、デジタル能力を備えた労働者への需要が高く供給が限られていることを示唆しています。研修やアップスキリングの機会を提供することは、単なる良い慣行ではなく、採用における競争優位となります。

これらの発見は、各地域の政策立案者がスキル開発により的を絞った投資を行う上で役立ちます。例えば教育の早い段階でデジタル基盤を構築することが重要です。例えば、シンガポールのSkillsFuture for Digital Workplaceでは、全セクター横断的な基礎デジタル研修を提供するなど、さまざまなアプローチが試みられており、参考になる取り組みといえます。同時に、すでに働いている労働者への支援も欠かせません。デジタル需要が最も速く伸びている職種に向けて、職業訓練や中堅向けの研修プログラムを拡充することで、小売、保険、医療で働く労働者も、変化する雇用主の期待についていけるようになります。

デジタル能力に早期かつ継続的に投資する国は、今日、そして将来の仕事により良く備えることができるでしょう。

方法

本分析は、Indeedに掲載された約600万件の求人情報に基づいており、2019年1月から2024年12月までのオーストラリア、インド、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポールを対象としている。

デジタルスキル要件は、OpenAIのGPT-4.1 miniを各求人の説明(ジョブディスクリプション)に適用し、4カテゴリ(デジタルスキルなし、基礎、中級、上級)に分類した。AIスキル要件も同様に3カテゴリ(AIなし、AI利用、AI開発)に分類。求人の職種構成が時間とともに変化する構成比の影響を除くため、職タイトル内でのデジタルスキル要件の変動に着目し、国レベルの集計値は職タイトルレベルの時間不変の雇用ウェイトを用いて構築している。2024年時点で求人件数が少なかった小規模な職業は、推定の信頼性を確保するため職業別のチャートから除外している。

賃金プレミアムは、国、職タイトル、給与形態、地域、企業、様々な非デジタルスキル要件、時間の固定効果を含む回帰分析により推定。

初期水準の異なる職種間でデジタルスキル要件がどのように変化してきたかを調べるため、職タイトルを2019年の平均デジタルスキルスコアに基づいて3グループ(低デジタル(0.33以下)、中デジタル(0.33〜0.67)、高デジタル(0.67以上))に分類。スコアの時間変化については、Adoption(導入)(「デジタルスキルなし」から「少なくとも何らかのデジタル能力を要求」へと移行した仕事からの寄与)と、Upgrading(アップグレード)(すでにデジタルスキルを要求していた仕事の中でより高いスキルレベルへとシフトした部分)に分解。詳細は、Adrjan, Aoki, Ciminelli, Döttling, and Garcia-Mandicó (2026), “Skills that Pay: Digital Skills Demand and Wage Premia in Asia and the Pacific”